これまで2回に渡って、人事評価制度における制度設計の基礎知識と、制度作成におけるポイントを解説しました。
これから自社を一層成長させていくためには、制度を定着させて円滑に運用していくことが大切ですが、この部分に課題を感じられている方は多いのではないでしょうか。
今回は、人事評価制度を上手く活用するための「運用」についてぜひ押さえておいていただきたいポイントをお伝えします。
【人事評価制度の基礎知識①】のコラムで記載しましたが、人事評価制度は、制度と運用の2軸で進める必要があります。
立派な制度が完成しても、運用できなければ何の意味もありません。
人事評価制度導入後、どのように制度を定着させるかについての項目は下記の4つです。
(1)新制度説明会
(2)評価者研修
(3)メンテナンス
(4)諸規程の整備・見直し
(1)新制度説明会
新しい人事制度が完成すれば、社員を集めて説明会を実施します。
時折、社員に資料だけを配付し、説明会を実施しない会社もありますが、おススメしません。
なぜなら、人事評価制度は社員にとって給与や賞与にも繋がるため、大変関心が高いものです。
例えば、「今まではやってもやらなくても変わらなかったけど、これからは頑張りをちゃんと評価してもらえるのではないか」という期待感。
逆に、「給与が下がってしまうのではないか」という不安感。
新しい人事評価制度を導入する時には、社員の中でこれらの感情が入り混じった状態になります。
また、会社にとっても制度によって社員の行動が変わる、社員のモチベーションに大きく影響することから変革の施策といえます。
人事評価制度のメリットの一つである「社員の意識・行動の変革」を実現するためには、新制度の考え方及び仕組みや移行に伴う特別措置などを十分、社員に理解してもらうことが重要であり、そのための説明会を実施することが重要になります。
●説明会成功のポイント
①経営者自ら社員に説明する
②新制度の目的を伝える
③説明会後の個別面接の実施
①経営者自ら社員に説明する
経営トップの自らの想い、考え方を明確に伝え、社員と正面から向き合うことが重要です。
社員は経営者のスタンスによって新制度の本気度をはかっています。
②新制度の目的を伝える
仕組みの説明だけではなく、なぜ今この制度を導入するのか?といった目的を最初に伝えることが大切です。
説明会での主な項目は下記の通りです。
●新制度改革の目的
例えば、
「全社一丸となって〇〇のビジョンを達成したい」
「社員から見て分かりやすく納得感のある評価を実現したい」
「社員がそれぞれの役割を認識し、目標と責任をもって職務に邁進して欲しい」
といったことが挙げられます。
●新制度の特徴(大きく変わる重要項目)
年功主義から抜擢なども有り得る成果・行動主義へなど。
●等級制度(人事フレームワーク)
資格等級のステップや等級定義など。
●評価の仕組み及び評価項目・方法
何を評価するのか、時期、評価基準など。
●月例給与の仕組み・運用方法
現行給与の何が廃止され、どういった給与体系になるのかなど。
制度移行時に調整給が発生した場合、現行給与を減額しないのであれば「新制度移行時点では現行の給与を下げない」ことを明示することで、社員にとっては新制度を受け入れやすくなります。
③説明会後の個別面接の実施
全体説明終了後、速やかに個別面接を実施します。
その際、新しい評価制度や給与体系を伝え、社員との合意を深めてください。
個別面接は直属の役員または部長が適切ですが、内容や能力面に不安がある場合、人事担当役員または部長が同席するか、直接行う場合もあります。
中小企業では社長が実施することもあります。
(2)評価者研修
アンケートの枠線部分をご覧ください。
アンケートによると、人事評価の不満は制度ではなく評価者にあるようです。
にもかかわらず、評価者への研修を実施する会社は少ないように思います。
新制度定着のためには、評価者研修は必須です。
評価者研修では、下記のことを中心に実施します。
①人事評価の全体像
●新制度の目的、仕組み
②評価者に求められる評価の考え方
●部下の具体的な行動や事実に基づき評価すること
●評価で陥りやすい評価エラー
●評価期間内にこだわる
●評価尺度を間違わない など
③目標設定のやり方
目標管理を導入した場合は必須です。
目標を立てるにも組織目標との連動、役職や個人等級に応じた目標設定など、適切な目標を設定するための教育が必要です。
簡単に目標管理を導入する会社が多いですが、難しい人事施策のひとつでしょう。
④評価演習
●自社の評価表を使って事例演習
⑤部下面談のやり方
●目標設定面談、評価面談、フィードバック面談などの進め方
「評価」はスキルです。
教育せず勝手にできるようになるものではありません。
評価者研修の頻度は、年に一度で十分ですが、制度導入前、新たに評価者が生まれるタイミングで実施してください。
また、評価直前に評価者研修を実施する会社が多いですが、タイミングとしては期初に実施するのが効果的です。
評価は一定期間の具体的事実・行動を見て判断します。
すなわち部下の評価期間内における具体的事実・行動も押さえていなければ評価できません。
人は通常、直近の事しかハッキリ覚えていないため、期初に評価者研修を実施することにより、評価者は評価期間内の部下の行動を把握する重要性に気づきます。
(3)メンテナンス
評価者研修と同じく、制度導入後、評価表フォーマットや評価項目などのメンテナンスを実施しない会社は多いです。
ある製造業で、欠勤する社員が多く、評価表の項目に勤務態度(欠勤しないこと)入れたところ、2年後には欠勤はなくなりました。
その後もこの評価項目は変わらず、全員がプラス評価です。
素晴らしいことですが、これでは勿体ないと思いませんか?
社員も成長しているのですから、評価項目も次のステージに向かうべきです。
メンテナンスでは特に評価項目に着目し、時代の変化、社員の変化に合わせて、定期的に見直しをはかってください。
ただし、制度導入後5年以上経過した、事業内容が変わった、社長が変わり経営ビジョンが変わった、組織が大幅に変わったなどの場合、メンテナンスではなく制度自体の見直しが必要でしょう。
(4)諸規程の整備・見直し
新制度導入に伴って、就業規則、賃金規程、退職金規程などの整備・見直しが必要です。
注意点として、規程に何でも明記すれば良いものではありません。
例えば、昇給に関して記載するとします。
A.昇給は4月に実施する
B.昇給は経営状況を勘案し4月に実施することがある
私の場合であれば、Bの記載をします。
なぜなら、経営状況により昇給が難しい場合Bであれば昇給を見送ることもできますが、Aは昇給を実施せざるを得ないでしょう。
ポイントはいかに経営の柔軟性を保つかです。
また、評価で降給や降格を行う場合、規程に必ず明記してください。
規程がなければ実施は難しいと考えてください。
社内で規程の見直しなどに不安がある場合、専門家(社会保険労務士など)にご相談された方が良いでしょう。
人事評価制度を上手く活用して社員の成長を促し、経営ビジョンが達成できる組織づくりを実現してください。