第19回 「与信管理」の基礎知識|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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経営事典

2021.04.27公開

「与信管理」の基礎知識

どんな事業者であっても、事業を行うからには営利の追求、つまり「もうけること」が大前提となります。
そして、もうけは「回収」できてこそ意味を持ち、そこで欠かせないのが「与信管理」です。
しかし与信管理は「代金を回収するため」だけのものなのでしょうか?
今回は、与信管理の目的から実際の進め方を解説します。

与信管理とは

まず、与信管理が必要とされる典型的な場面として、売買取引を例に考えてみます。
売買取引では、売り手と買い手が存在し、売り手には商品を引き渡す義務、買い手には商品代金を支払う義務があります。
買い手が消費者であれば、商品の引渡しと代金の支払は同時に行われるのが一般的です。

一方、買い手が事業者の場合、商品の引渡しが先行し、代金は後から支払う、というケースが多くなります。
特に、定期的に売買取引を行うような相手先には、「商品の引渡しは発注の都度行い、代金の支払は1か月分まとめて請求」といった「掛け取引」が広く用いられています。

この掛け取引を行う際に、売り手側は「買い手が期日通りに代金を支払ってくれないかもしれないリスク」を負うことになります。

ここで必要なのが「与信管理」です。

与信とは、「相手に信用を与えること」です。
そして与信管理とは、「相手に与えた信用が適切な範囲にあるかを確認し、それを維持していく活動」です。

売買取引の例で言えば、「買い手が期日通りに代金を支払ってくれないかもしれないリスク」はあるが、「相手の支払能力に信用を与えて」、即時の代金支払ではなく掛け取引を行う、ということを意味します。

このように、取引を行う上で、相手先に対して何らかのリスクを負うときには、そのリスクを管理する「与信管理」が必要になります。

「与信管理」に取り組むべきなのはどんな事業者?

「当社は消費者向けの事業だし、代金回収はすべて現金なので与信管理は不要」
とお考えの事業者もあります。
たしかに、商品の引渡しと支払が同時に行われる消費者向け事業の場合、代金回収を目的とした与信管理の必要性は低くなります。

では、消費者向けの事業だけをやっている事業者は、与信管理が不要なのでしょうか?
答えは「No」です。

与信管理とは、相手の支払能力に焦点を当てた「取引先管理」の手法です。
「与信管理」の主たる目的は「代金の回収」であることは間違いありませんが、売り手・買い手を問わず、「取引先」に事業者がいる以上、取引先管理は事業継続に重要な役割を持ちます。

仕入先の与信管理を行っておらず、ある時突然主要な仕入先が倒産してしまった、といったことを予防するためにも、取引先管理を行う必要があります。

事業運営に支障をきたすリスクを防ぐ、リスクが発生した際の影響を抑え、事業を継続できる体制を整える、という意味でも、与信管理はすべての事業者が行うべきものと言えます。

また、与信管理を行う効果として、「自社の経営状況の確認ができる」という側面があります。
「相手に与えた信用が適切な範囲にあるかどうか」は、自社の経営状況に左右されます。
「取引金額1,000万円、代金の回収は1か月後」という取引も、手元資金が潤沢な事業者と、自転車操業の事業者では、「適切な信用範囲」が異なります。

取引先の経営状況だけでなく、自社が取れるリスクを適切に見極めることは、すべての事業者に必要なことではないでしょうか。

さらに、与信管理は自社が行うだけでなく、「他社から与信管理される側」になる可能性も十分あります。

自社で与信管理を行うことで、信用を判断するときに見るべきポイントがわかります。
見るべきポイントは、言い換えれば「見られているポイント」。

このポイントを的確に押さえ、取引先に対応していけば、自社の信用力向上にもつながります。
「与信管理を適切に行っている事業者」という事実も、信用力向上のプラス要素となります。

今日からできる与信管理

そうは言っても、今まで与信管理なんて考えたこともなかった、何から着手すればいいのかわからない、と思われるかもしれません。
時間とコストをかけてやろうと思えば際限がない、というのも与信管理の難しいところでもあります。

そこでまずは、通常の業務でも可能な与信管理、少ないコストで始められる与信管理をご紹介します。

<与信管理の進め方>
①自社の経営状況を確認する
与信管理で最も大切なのが、自社がどのようなリスクを抱えているのかを把握し、どの程度のリスクであれば許容できるのか、基準を設定することです。
そのためには、まず自社の経営状況を正確に把握する必要があります。
特に、財務関係の状況確認をしておきましょう。

以下の内容を確認してみましょう。
◆過去に取引先の倒産によってどのような影響があったか
 →倒産が発生した場合の影響を見積もります。
◆必要運転資金はいくらか、常時手元にある預貯金はいくらくらいか
 →自社の資金繰りの状況を把握します。
◆毎期の利益はどの程度あるか
 →現在黒字なのか赤字なのか、黒字の場合は得意先の倒産が発生した場合でも黒字が維持できるのか、を把握します。

②自社の取引先との取引状況を把握する
取引先が倒産した場合、それが自社の取引で大きなウエイトを占める先であった場合は、事業継続に非常に大きな影響を及ぼします。

得意先、仕入先ともに、以下の点を確認してください。
◆支払・回収のサイトを確認する
 →資金繰りの観点からは、回収が先行するサイクルであることが望ましいです。
◆決済手段を確認する
 →売掛金回収が手形の場合、現金と比べて債権回収までの時間が長期になり、リスクは高くなります。
◆取引先数が何社あるのか
 →取引先数が少なければ少ないほど、取引先の倒産で自社が受けるダメージは大きくなります。
◆取引先のうち、最も取引額の多い先が、取引額全体に占める割合はいくらか
 →特定の取引先に依存していないかどうかを確認します。1社で全体の取引額の30%以上を占めるようであれば、かなり依存度が高いといえます。

③売掛債権の回収については、回収期日に遅れがないか確認する
与信管理の基本ともいえるのが、「期日通りに代金を回収できているかを確認すること」です。
インターネットバンキングを利用すれば、回収期日に金融機関へ行かなくても、入金状況は確認できます。

期日に入金が確認できなかった場合、相手先へ必ず早めに連絡を入れます。
事務手続きのミスや金融機関側のシステムの問題など、相手先の資金状況以外の原因である可能性もあります。
焦らずに、入金が確認できていない事実を伝え、改めて入金予定日を確認しておきましょう。

④取引先の倒産が発生した場合に備える
万が一、得意先が倒産してしまった場合、売掛金が回収できなくなるリスクが発生します。売掛金の回収遅延が自社の資金繰りに影響を与えないよう備えておきましょう。

<資金繰りへの備え>
◆必要運転資金よりも多めの現預金を常に確保しておく
◆融資の相談ができるように、金融機関と良好な関係を築いておく
経営セーフティ共済に加入する

また、得意先が倒産すると、今後の売上を失うことにもなります。
取引比率が高い先であればあるほど、その影響は大きく、長期にわたります。

<得意先減少への備え>
◆特定の取引先に依存していないか確認する
◆既存得意先の中で、取引比率が低い先への営業を強化する
◆新規得意先の開拓を進める

仕入先が倒産してしまった場合、自社が商品・サービスを提供できなくなるリスクが発生します。

<仕入先減少への備え>
◆特定の取引先に依存していないか確認する
◆仕入先を複数持っておく

「与信管理」はBCPの一環

与信管理の目的は、取引先との関係で生じるリスクを適切な範囲に管理すること、つまりリスクマネジメント・BCP(事業継続計画)の一環と言えます。

BCP(事業継続計画)といえば、少し前までは主に地震や台風などの自然災害に対してどのように対処するか?という視点が中心でした。
コロナ禍もあり、事業継続に影響を与える事象には自然災害以外のものもある、という意識を持たれた方も多いと思います。

取引先の倒産も、事業継続に影響を与える事象と言えます。

事業継続力強化計画の認定制度もあり、BCPであれば関心がある、という事業者もあるのではないでしょうか。
「与信管理」という別物として考えるのではなく、まずはBCPの一環としてできることから始めてみましょう。

事業運営にはリスクがつきものです。
リスクをゼロにすることできませんが、事業を続けていくためにリスクそのものの発生を抑える体制や、リスクが発生した際に早急に対応できる体制づくりがより重要であると言えます。

与信管理で言えば、リスクをゼロにしようとすると、取引自体ができなくなってしまいます。
「ゼロリスク」ではなく、自社が許容できる範囲での「リスクテイク」を意識して、今日できることから始めていただきたいと思います。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

高松 留美(タカマツ ルミ)氏

高松 留美(タカマツ ルミ)氏

 

中小企業診断士、社会保険労務士
大阪産業創造館 スタッフコンサルタント
「学卒後、企業信用調査会社に入社し、経理部門・信用調査業務に従事。
在職中の2009 年、中小企業診断士に登録。
その後税理士事務所勤務を経て2013 年に独立し、2020 年より大阪産業創造館 経営相談室のスタッフコンサルタントとして、財務改善・経営計画・資金調達を軸に中小企業の経営支援を行っている。

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