第35回 【2023年4月適用】中小企業も時間外労働割増率が50%に!|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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2022.10.25公開

【2023年4月適用】中小企業も時間外労働割増率が50%に!

働き方改革推進の法改正のひとつとして、2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率50%が中小企業にも適用されます。
そこで今回は、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率に関する改正の概要と、引き上げに向けて今から中小企業が進めておくべき対応についてお伝えします。

1.「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率」に関する改正内容

労働基準法において、法定割増賃金率は月60時間以内の時間外労働については25%以上、月60時間を超える時間外労働について50%以上とすることが定められています。
しかし、中小企業においては月60時間を超えても法定割増賃金率は25%のままと猶予されていました。

2019年の働き方改革関連法の成立により、2023年4月からはこの猶予が廃止され、中小企業でも月60時間を超える時間外労働について法定割増賃金率が50%以上となります。
そのため、中小企業においても、この法改正に向けた具体的な対策が求められています。

《改正のポイント》


図表1

この法定割増賃金率の引上げにより、例えば、1か月に70時間の時間外労働をさせた場合には、60時間分の時間外労働に関しては割増賃金率25%以上、60時間を超えた残りの10時間分に関しては割増賃金率50%以上が適用されます。(もちろん70時間の残業をさせるためには特別条項付きの36協定の締結、届出が必要です)

法改正は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超える時間外労働が対象です。
1日の所定労働時間が7時間30分、1週の所定労働時間が37時間30分の場合、法定労働時間を超えない範囲の(法定内)時間外労働については、100%分の賃金支給で足ります。

2.深夜・休日労働と重なる場合

月60時間を超えた時間外労働が深夜労働や休日労働と重なった場合、賃金はどのように計算すればよいのでしょうか。

夜の22時から早朝の5時までの時間帯に行った労働に対しては、会社は25%以上の割増率で賃金を支払う必要があります。
また、週1日の法定休日に社員を勤務させた場合は、35%以上割増した休日手当が発生します。

そのため、月60時間を超える時間外労働を22時~5時の時間帯に行わせた場合には、深夜割増賃金率25%と時間外割増賃金率50%を足した75%の割増賃金を支払う必要があります。

なお、月60時間の時間外労働時間の計算には、4週間に4回または1週間に1回の付与が義務付けられた法定休日に行う労働時間は含まれません。

ただ、それ以外の休日に行った労働時間は含まれます。
例えば、日曜日を法定休日、土曜日を所定休日と決めていた場合、日曜日に行った労働は法定時間外労働の対象ではなく、土曜日に働いた分は、法定時間外労働にカウントされます。
法定休日と法定外休日の割増率の計算には、注意しましょう。

3.割増賃金の代わりに休暇を付与することも可能

月60時間を超える法定時間労働に対して、割増賃金の代わりに有給休暇を付与することも可能です。
25%の割り増し分までは必ず金銭で支払う必要がありますが、それを超えた分は労使協定に基づいて、休暇に振り替えることができます。

労使協定では、

①代替休暇の時間数の具体的な算定方法
②代替休暇の単位
③代替休暇を与えることができる期間
④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

の4項目を定める必要があります。

また代替休暇は、取得者の十分な休息を確保するため、1日や半日というまとまった単位で与えることが推奨されています。

なお、労使協定の締結によって代替休暇の制度を導入する場合には、会社はその内容を就業規則にも記載する必要があります。


図表2

4.法改正までに必要な対策

では、2023年4月に迫った中小企業に対する法改正に向けて、どのような準備をしておく必要があるのでしょうか。

・労働時間の正確な把握、管理
法律で定められた正しい割増賃金を支払うためには、労働時間を正確に把握し、管理することが必要です。
勤怠状況を効率的に、正しく記録できる勤怠管理システムの導入や時間外労働のルールを検討しましょう。

長時間労働が常態化している企業は、「指示残業」または「残業の許可制」が機能していないケースが散見されます。

個々の従業員の仕事のやり方に依存することなく、上司が仕事内容、進捗状況、優先順位などを考え、残業の要否を判断することが大切です。
また、総労働時間を抑制し、効率的な働き方を進めるためには、勤怠管理システムを使って社員の労働状況を可視化、改善することも有効でしょう。

・就業規則の変更・代替休暇制度の新設
割増賃金率引き上げに伴い、就業規則の変更が必要になるケースがあります。
月60時間を超える時間外労働には賃金を50%の割り増しで支給する旨、就業規則に明記しましょう。


<就業規則規定例>
(時間外労働に対する割増賃金率)

第○条 時間外労働の割増賃金は、次の計算式により計算して支給する。
なお、この場合の 1 か月が毎月1 日を起算日とする。(賃金計算期間と同じとする。)

(1)1 か月 60 時間以下の時間外労働について
基本給+○○手当+△△手当
----------------------------   × 1.25 ×時間外労働時間数
1 か月平均所定労働時間数

(2)1 か月 60 時間を超える時間外労働について
基本給+○○手当+△△手当
----------------------------   × 1.50 ×時間外労働時間数
1 か月平均所定労働時間数

(代替休暇)
第○条 1か月(賃金計算期間)の時間外労働が60時間を超えた従業員に対して、労使協定に基づき、次により代替休暇を与えるものとする。

(1)代替休暇を取得できる期間は、直前の賃金締切日の翌日から起算して翌々月の賃金締切日までの2か月とする。

(2)代替休暇は、半日又は1日で与える。この場合の半日とは、午前(8:00~12:00)又は午後(13:00~17:00)のことをいう。

(3)代替休暇の時間数は、1か月60時間を超える時間外労働時間数に換算率を乗じた時間数とする。この場合において、換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率50%から代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率30%を差し引いた20%とする。また、従業員が代替休暇を取得した場合は、取得した時間数を換算率(20%)で除した時間数については、20%の割増賃金の支払を要しないこととする。

(4)代替休暇の時間数が半日又は1日に満たない端数がある場合には、その満たない部分についても有給の休暇とし、半日又は1日の休暇として与えることができる。ただし、前項の割増賃金の支払を要しないこととなる時間の計算においては、代替休暇の時間数を上回って休暇とした部分は算定せず、代替休暇の時間数のみで計算することとする。

(5)代替休暇を取得しようとする者は、1か月に60時間を超える時間外労働を行った月の賃金締切日の翌日から5日以内に、会社に申し出ることとする。代替休暇取得日は、従業員の意向を踏まえ決定することとする。

(6)会社は、前項の申出があった場合には、支払うべき割増賃金額のうち代替休暇に代替される賃金額を除いた部分を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から2か月以内に取得がなされなかった場合には、取得がなされないことが確定した月に係る割増賃金支払日に残りの25%の割増賃金を支払うこととする。

(7)会社は、申出がなかった場合は、当該月に行われた時間外労働に係る割増賃金の総額を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、取得の意向がなかった第1項の期間中に従業員から改めて取得の申出があった場合には、会社の承認により、代替休暇を与えることができる。この場合、代替休暇の取得があった月に係る賃金支払日に過払分の賃金を精算するものとする。
以上
<各図表の出典>
※図表1:厚生労働省 中小企業庁 「中小企業の事業主の皆さまへ 2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf

※図表2:厚生労働省 「改正労働基準法のポイント」
 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000972775.pdf

(2022年10月25日掲載)

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

吉崎 靖宏(よしざき やすひろ)氏

吉崎 靖宏(よしざき やすひろ)氏

 

株式会社H&Mコンサルティング 代表取締役
社会保険労務士・人事コンサルタント

企業の人事・総務・経営企画部門で25年以上の実務を経験後、人事コンサルタント、社会保険労務士として独立。
現在は商社、メーカー、広告、ホテルなど幅広い業界の人事労務顧問として活動するとともに、人事制度構築コンサルタントとして活動している。
「人事屋」としての誇りを持ち、経営者と従業員がともに成長できる職場づくりのサポーターとなることをめざして日々精力的に活動している。

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