急速に変化する事業環境に対して、今後は自社を取り巻く変化を捉え、自社のビジネスモデルやマネジメントを転換することが重要となります。
その際に有効なものが中期経営計画です。
中期経営計画作成における基本的なポイントをお伝えする本シリーズの第1回目は、中期経営計画の全体像と外部環境分析について解説します。
中期経営計画とは
中期経営計画とは中長期先の自社のあるべき姿(
経営ビジョン)を定め、それを実現するための戦略と計画です。
中期経営計画を立てる目的は大きく3つあります。
①中長期のビジョンの達成に、自社の経営リソースを集中させる
②短期では解決が困難な課題に対して、長期的に取り組む
③全従業員で会社のビジョンや方向性を共有する
環境変化が激しい中、中長期の計画を立てることの必要性に疑問がある方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、その中にも大きな流れがあります。
例えば、「デジタル化」という流れ、「日本の人口減少」という流れ、「脱炭素」といった流れから、今後の社会や顧客ニーズの変化を予測することは可能です。
そして、その社会における自社の存在意義やあるべき姿を見つめ直し、そこに到達するための戦略・計画を立てることが重要となります。
中期経営計画の全体像
中期経営計画は図表1の項目で構成されています。
図表1:中期経営計画の全体像
まず初めに会社の目的やめざすところである「経営理念」と「経営ビジョン」を定め、それを実現させる具体策として、経営戦略以下の項目を定める、という流れになります。
しかし、この中期経営計画を立てる前に、まずは自社を取り巻く環境の現状と、今後どのように変化していくかをしっかりと分析することが重要です。
環境分析の手順
自社を取り巻く環境は図表2のように内部環境を中心として、その外側にマクロ環境とミクロ環境が存在します。
それぞれ、現状がどうなっているか、未来に向けてどのように変化するのかを分析します。
図表2:自社を取り巻く環境
外部環境分析
(1)マクロ環境
マクロ環境とは自社に大きな影響を及ぼすもので、コントロールできない環境です。
例えば、新型コロナウイルスの発生や、米中の対立などは自社でどうにかできる問題ではありません。
マクロ環境を把握するフレームワークがあり、以下の4つの観点で分析します。
それぞれの頭文字をとってPEST分析といいます。
政治(Politics)
(例)法律、政権交代、規制緩和、許認可
経済(Economy)
(例)景気、経済成長率、物価、為替
社会(Society)
(例)流行、ライフスタイル、人口変化、消費行動
技術(Technology)
(例)新技術、技術の進歩、インフラ
すでにお伝えした通り、これらは自社でコントロールできない制約条件であり、この条件下で事業活動を行わなければなりません。
競争して他社に打ち勝つにはルールの把握が重要であり、ビジネスにおける市場のルールはすぐに更新されるため、常に世の中の動向に目を光らせておく必要があります。
(2)ミクロ環境
ミクロ環境は自社の行動が直接的・間接的に影響を与える環境で、大きく「市場」、「競合」の2つに分けて分析します。
◆市場分析
市場分析で調査すべき主な内容は下記です。
【市場の規模と成長性】
市場の規模と成長性はミラサポの統計グラフ化ツールを利用すれば、簡単に過去から現在までの販売金額や数量を算出しグラフ化できます。
https://mirasapo-plus.go.jp/hint/14583/
図表3は統計グラフ化ツールで作成したアルミニウム電線の販売金額を示すグラフで、市場規模が増加していることがうかがえます。
図表3:アルミニウム電線の販売金額
これ以外にも下記のような情報源から取得する方法もあります。
一般的に製品・サービス市場は、世の中に誕生してから市場に認知され(導入期)、導入が進んだ結果、市場規模が増加することで、競合の参入も増加し(成長期)、やがて成長が鈍化し、生き残りをかけた戦いとなり(成熟期)、代替品の誕生やニーズの減少による市場規模の減少(衰退期)となります。
それを表したのが図表4のプロダクトライフサイクルになります。
図表4:プロダクトライフサイクル
自社の商品・サービスがプロダクトライフサイクル上のどの段階かによって、打つ戦略は変わりますし、衰退期に入っているのであれば、図表4の赤線のように次の事業の柱となる新規事業を育てておく必要があります。
【顧客のニーズや解決したい課題】
顧客のニーズや解決したい課題を知ることも重要です。
物を作れば売れる時代は終わっており、顧客のニーズの変化を柔軟に読み取り、それに合わせた商品開発や改良が求められています。
顧客ニーズの調査として下記の方法があります。
- アンケート調査
アンケート票を作成して、定量的・定性的に顧客の意識調査を行います。
一定数のサンプルを用意する必要があります。
- インタビュー調査
1対1で行うデプスインタビューや5~8名程度を対象としたグループインタビューがあります。
ディスカッション形式で顧客への深い質問や、意見を求めることができるため、アンケート調査では確認できない具体的な内容を調査することが可能です。
- 顧客の行動観察
顧客行動を直接観察や、ビデオで撮影して観察し、その中に斬新なもの、意外・予想外なもの、矛盾したものがあれば、顧客自身が認識していない潜在的なニーズを引き出きだせる場合があります。
◆競合分析
競合分析では、競合の主要なターゲット、競合の強み・弱み、商品・サービスの特徴、シェアなどを分析します。
図表5のような表形式で整理することで、比較しやすくなります。
図表5:競合との比較表
また、コトラーが提唱した競争地位戦略では、競争上の地位に基づいて、図表6のように自社の立ち位置を4つに分類できます。
図表6:コトラーの競争地位戦略
このコラムを読んでいただいている方は、中小企業の方が多いのではないでしょうか。
そのため、経営資源の量が少ない「ニッチャー」か「フォロワー」に該当する企業が多いかと思います。
フォロワーはコストをかけずにリーダーやチャレンジャーの模倣をして、低価格化が基本戦略となり、業界での生き残りを目標とするため、高い利益を期待することができません。
そのため、中小企業の戦略としては、ニッチャーをめざすことが望ましいです。
リーダーやチャレンジャーと直接的な競争を避け、ニッチ分野において、NO.1となるポジショニングが重要です。
次回は環境分析の中の「内部分析」について解説していきます。
※図表:1、図表:2、図表:3、図表:5、図表:6は谷口自作による。