第12回 人事評価制度の基礎知識① ~人事評価制度をつくる目的を意識する~|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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経営事典

2020.11.10公開

人事評価制度の基礎知識①
~人事評価制度をつくる目的を意識する~

「頑張っている社員をきちんと評価したい」「人材の育成や定着に力を入れたい」
と考え、人事評価制度の導入を検討されている方は多いのではないでしょうか。
導入するのであれば、評価者・従業員双方の納得感が得られる制度にしたいもの。
今回は、これから人事評価制度をつくる上でまず初めに意識していただきたい、「制度導入の目的」について解説します。

このコラムを読んでくださる方は、人事評価制度をつくろう、または見直そうとお考えの方が多いと思います。
私は数十名から数百名規模の中小企業を中心に、人事評価制度構築のお手伝いをさせていただいてきました。
私が企業からご依頼をいただく場合、

①社員数が増え、社長の目が届かないため評価制度をつくりたい。
②社長交代(世代交代)に合わせて評価制度をつくりたい。
③社長の感覚に頼る評価から脱するために評価制度をつくりたい。
④評価制度はあるが、10年以上前につくったもので、今の組織に合わないため制度を見直したい。
⑤以前コンサルティング会社に制度をつくってもらったが、複雑で社員が理解できず、使いこなせないので見直して欲しい。

大きく分けて、この5つのパターンがあります。

この中で最も問題なのが⑤です。
何百万円と投資をしたけれども、制度を使いこなせず、時間とお金が無駄になっているのです。実はこのパターンは少なくありません。
私へのご依頼企業の中でも3割程度あります。

なぜこのようなことになってしまうのでしょうか?
依頼したコンサルティング会社との相性もあるのかもしれませんが、失敗する理由は、「運用」を意識してつくっていないからです。

人事評価制度構築は、「制度」と「運用」の2軸で考えます。
「制度」は器のようなもので、制度導入後の「運用」を意識しなければ、どのような形にでもつくれてしまいます。

最新の制度、流行りの制度、大手企業が導入した制度、横文字のカッコイイ制度(今でいうジョブ型など)が良い!としてつくられたものは、「制度」だけに注目した人事評価制度の典型です。
また、すべてとは言いませんが、「制度」ありきの進め方も多く見られます。

これではせっかく制度を導入しても、失敗する可能性が高くなります。
人事評価制度はいくら良い制度であっても、現場で機能させなければ何の価値もありません。
つまり、大切なことは「運用」を意識した制度づくりをいかに進めるかということになります。

では、「運用」を意識した制度づくりとはどのようなものなのでしょうか?
まずは以下3点をしっかりと考えることからスタートします。

①自社の達成したい経営ビジョンを考える
②自社の業態を考える
③自社の風土(社員)を考える

①自社の達成したい経営ビジョンを考える
例えば、メルカリの経営ビジョンには「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」とあります。
ということから、例えば、制度の設計は創造性豊かな、グローバルな視点を持つ人材が成長する、評価される方向性で検討してはどうか?と考えられます。

リクルートの経営ビジョンは、「一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生」です。
「自分」というのがキーワードであり、「個の尊重」という価値観もありますから、制度設計する上では主体性・自律性を高めることができるような内容が良いのではないか?などと考えることができます。

また、人事という視点で見ると、経営ビジョンは採用、教育、評価の一貫性を考える必要があります。
自社の経営ビジョンを達成するために必要な人材を採用し、教育し、評価をしていくということです。

①自社の達成したい経営ビジョンを考える

「採用は応募に来た人の中から選ぶだけ」
「教育はその場の思い付きで社員に研修・セミナーに参加させる」
「評価は書籍やネットを参考にしたような汎用的な制度」
これでは経営ビジョンの実現は難しいものとなります。
皆さんの会社はいかがでしょうか?

②自社の業態を考える
小売・サービス業、製造業、卸売業など業態によって、マッチする人事評価制度は異なってきます。
例えば、小売・サービス業は変化が激しく、スピード勝負のため、年1回の評価で賃金を決めるという制度はマッチしません。
変化の激しい業態では、半期もしくは四半期単位など変化に対応できる制度の方が現場にマッチしやすくなります。
製造業は職種間に求める能力や適性が大きく異なるため、全社員に同じ制度はマッチしません。
製造現場でモノづくりに従事している社員には生産性、効率性や職務能力を評価し、営業は売上、利益など数字を中心に、研究や技術は製品開発での貢献度合いを評価するなど検討する必要があります。

③自社の風土(社員)を考える
企業にはその企業独特の風土があります。
その業界特性からきているものもありますが、同じ業態・業界の中でも、全く異なるそれぞれの企業の風土があります。

これは創業期からの経営トップの経営手法やマネジメントのやり方にも強く影響されています。
非常に強いオーナー型企業では、どうしても依存体質が強い風土となってしまいますし、同じオーナー型企業でも社員の意見を吸い上げる経営者のもとでは自由闊達な風土であったりします。
自社の風土は外部(お客様、業者、金融機関など)のちょっとした声からも見えるものです。
例えば、「明るい社員が多いですね」「いつも落ち着いた雰囲気ですね」など。
和を重んじるアットホームな風土の企業に成果主義はマッチしないですし、逆に数字にコミットする風土の企業に、協調性に比重を置いた制度は合いません。

人事評価制度をつくることが目的ではありません。
人事評価制度は、経営ビジョン達成のためのツール(手段)であり、そのツールを使って、筋肉質な強い組織をつくることこそ重要です。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

片岡 祐樹(かたおか ゆうき)氏

片岡 祐樹(かたおか ゆうき)氏

 

True Vision株式会社 代表取締役
社会保険労務士
人事コンサルタント

大学卒業後、創業90年 年商100億円 老舗商社(大阪市)にて総務・人事・財務責任者を務め、その後、独立開業。
現在、True Vision株式会社の代表取締役を務める。
人事制度構築コンサルティング、中堅・中小企業の労務顧問、メガバンク系セミナー会社でも講師として数多く登壇している。
中小企業ごとの特性を活かし、創り上げるオリジナル人事制度構築には定評がある。
知識・理論だけではなく、現場の感情を理解し、現場で運用できる制度設計を強みとし、クライアントからのリピート率が高い。

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