第51回 中小企業が考えるM&A① ~M&Aの全体像~|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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2023.12.12公開

中小企業が考えるM&A① ~M&Aの全体像~

最近、ニュースや雑誌などでもよく話題になるM&Aですが、皆様の周りでもより身近になってきたのではないでしょうか?
ただM&Aと聞いても、そもそもイメージがわかない方も多いかもしれません。
今回はM&Aとは何か、特に中小企業のM&Aにフォーカスを当てて解説していきます。

1.M&Aとは

M&Aという言葉は英語のMerger & Acquisitionの略で、直訳すると「合併と買収」という意味です。
M&Aの定義は様々ありますが、簡単に「ビジネスを買う(売る)こと」というようにとらえていただければいいでしょう。

2.M&A件数が増えていることやその社会的背景について

M&Aの件数は以下のグラフに示すように、1990年後半から急激に件数が増え、活発になってきました。

引用元:https://www.marr.jp/menu/ma_statistics/ma_graphdemiru/entry/35326
M&Aの件数が増えている要因は大きく分けて3つの要因に分けられます。

①中小企業経営者の高齢化
中小企業白書によると、以下の図に示すように20年間で経営者の年齢は47歳から66歳へ移動しています。
この中の約半数の企業は後継者が未定の企業であり、高齢化に伴い事業の継続を考えたとき、第三者への譲渡(M&A)が有効な手段として選択されるようになってきました。

引用:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_6_1_2.html

②人口減による企業数の減少
日本は人口減少に伴い需要が減っているので、これまでの企業数を維持することは非常に困難です。現に1999年から2016年にかけて企業数は485万社から359万社と126万社も企業数が減少しています。
この企業数の減少により統廃合が増加したこともM&A件数増加の大きな要因となっています。

③中・小規模M&Aへの仲介会社やプラットフォーマーの参入
これまでM&Aは大企業が行うもので中小企業とは無縁というイメージがありましたが、近年は中小企業向けにM&Aの助言を行う企業や公的機関が増加しています。
中小企業庁が創設したM&A支援期間登録制度には、2,897社(2023年6月末時点)ものM&Aアドバイザリー企業が登録されており、大企業でなくてもM&Aを実行しやすい環境が整ってきたといえるでしょう。
また、M&Aの案件を掲載するプラットフォームも増えてきており、これも中小企業M&A件数を増加させる一因となっています。

上記の流れは今後も加速していくと考えられるため、M&Aの件数は増加していくと考えられます。

3.M&Aのメリット

M&Aには多数のメリットがありますが、買い手・売り手の両社の視点で説明します。
まず、買い手には主に以下のメリットがあります。

①売上の増加
M&Aを行う際は顧客や取引先を引き継ぐことになるため、新たな市場や顧客を獲得することによって売上を増やすことが可能です。
他にも新しい事業の獲得や、ブランド力、知的財産権の獲得により売り上げの増加を見込むこともできます。

②経費削減
M&Aにより規模の経済を働かせ、経費削減を行うことが可能です。
また、川上・川下への進出や本社・支社統合による費用削減などの合理化によっても経費削減が可能です。

③人材の獲得
近年は人口減に伴い人材の獲得競争が激化していますが、M&Aでは人材をまとまった人数で獲得することが可能です。

次に売り手のメリットを紹介します。売り手のメリットは以下に示すものがあります。

①創業者利益の獲得
オーナー経営者であれば、M&Aで株式や事業を売却することにより売却益を得ることが可能です。
中小企業の場合は退職金を積み立てていないケースも多く、老後資産を確保するという意味でも有効な手段となります。

②従業員の雇用継続
基本的には買い手は従業員を含めて引継ぎを検討するため、従業員の雇用を継続することが可能です。
大きな会社の傘下に入ることで従業員が安心し、離職率の低下につながるケースもあります。

4.M&Aではどのような方法があるのか?

ここまででM&Aについて大まかなイメージはつかめたかと思います。
それではM&Aにはどのような方法があるでしょうか?

中小企業のM&Aにおいて、実務上よく使われる手段として「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」がありますが、今回はそちらに焦点を当て説明します。

①株式譲渡
株式譲渡とは、売り手の株主が保有株式を買い手に売却し、経営権を引き継ぐ取引手法です。売り手企業は譲渡の対価として金銭を受け取り、買い手企業は対象企業の経営権を獲得します。

一般的に中小企業の株式はオーナー社長が大半を所有していることがほとんどなので、オーナー社長と買い手の間で合意できればスムーズに経営権の移転ができることが特徴です。

②事業譲渡
事業譲渡とは、譲渡する側の事業の一部もしくは全部を相手方に売却することです。
株式譲渡では譲渡の対象が株式であるのに対して、事業譲渡では譲渡の対象は事業となります。

事業譲渡は必要な資産だけを個別に引き継ぐことができ、不要な資産や債務を引き継ぐ必要がない反面、手続きが煩雑で税負担があるという特徴があります。

③会社分割
会社分割とは、会社の一部もしくは全部の事業を切り離し、別会社に移転するM&A手法です。事業譲渡と似たように感じますが、会社分割では資産や負債、契約の全てを包括的に引き継ぐ必要があるためしっかりとした事前調査を行わなければ不要な資産を引き継いでしまう可能性があります。

しかし、手続きは会社分割の申請のみであるため、事業譲渡よりも容易に法務手続きを行えることが特徴です。

実際にM&Aを行う際は、どの方法が最も適しているかを吟味しながら実行していくこととなります。
法務・税務が複雑に絡むので、弁護士や税理士に相談することが望ましいでしょう。

5.M&A全体の流れと注意点

M&Aの全体の流れは大きく分けて「プレM&Aフェーズ」「M&A実行フェーズ」「ポストM&Aフェーズ」の3つに分けられます。
それぞれの流れと注意点を見ていきましょう。


筆者作成

①プレM&Aフェーズ
M&A実行の前のフェーズでは「M&A戦略の立案」と「ターゲット企業の選定」を行います。
まずは自社の経営戦略と照らし合わせながら、M&Aを活用してどのような成長を実現するのかを定めます。
このM&A戦略に従って、対象となる企業の情報を収集します。
収集した情報をもとに、20~100社程度のロングリストを作成し、各社の事業上のシナジーを評価して最終的に5~15社程度のショートリストへ落とし込みをします。

よく「いい会社があるからM&Aしようかな?」と戦略やシナジー効果を無視してM&Aをしてしまうケースがありますが、失敗することが大半です。
必ずM&A戦略を定めたうえで、「経営する上で必要な会社を買う(売る)」ようにしましょう。

②M&A実行フェーズ
次に、ターゲット企業へのアプローチを行います。
アプローチの方法は多々ありますが、M&Aに慣れていない間はFAや仲介会社を利用するのがよいでしょう。
手数料が発生しますが、条件交渉や契約書の作成等、専門的な知識を基としたアドバイスが受けられます。


筆者作成

アプローチの次はトップ面談です。
トップ面談では売り手企業が安心できることをゴールとして話を進めるようにしましょう。
ここで金額等の条件を話してしまうと、相手から不信感を持たれます。
個人的な趣味などの話も織り交ぜつつ、話しやすい場を作ることも効果的です。

トップ面談が終わった後は意向表明書や基本合意書を提出し、デューデリジェンスを実施、最終契約を締結してクロージングという流れとなります。

③ポストM&Aフェーズ
M&A成立後、最も重要となるのがPMIと呼ばれるM&A成立後の経営統合作業です。
この作業を怠るとM&Aによるシナジー効果を得られない結果となるので、じっくり腰を据えて行うことになります。

PMIに関しては非常に重要ですので、第二回のコラムで詳しくお話します。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

畦田 佑登(うねだ ゆうと)氏

畦田 佑登(うねだ ゆうと)氏

 

M&Aイノベーション株式会社 代表取締役社長
神戸大学経営学部を卒業後、デロイトトーマツグループのトーマツイノベーション株式会社にて経営、戦略、人事のコンサルティングを経験。大阪支社の立ち上げ、営業責任者として500社以上の教育制度導入支援を行う。2018年に神戸大学大学院 専門職大学院にてMBAを修得。
その後、白潟総研の大阪支社立ち上げをし、グループ子会社のM&Aイノベーション株式会社の代表取締役に就任。
中小企業に対して、「人と組織の成長」に関するコンサルティングを専門とする。具体的には、M&A、採用支援、組織開発・組織変革、人事評価制度構築、教育制度構築、幹部・管理職へのプライベートコーチング、トップセールスのノウハウ標準化など。
M&Aにおいては、アドバイザリーだけでなく買収後の組織統合プロセス(PMI)も支援する。

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