前回のコラムでは、「中期経営計画の全体像」と「外部環境分析の手法」についてお伝えしました。
今回は、「内部環境分析の手法」についてご紹介します。
内部環境分析
内部環境を分析する目的は、
①強み(自社の競争優位性・重要成功要因)、②弱み(自社の課題・問題点)を明らかにし、それを経営戦略の策定に活かすことにあります。
① 強み(自社の競争優位性・重要成功要因)
顧客が商品・サービスを購入する際に、競合ではなく自社の商品・サービスを選ぶ理由は、品質が良い、納期が早いなど、競合と比較して「競争優位性」があるからです。
また、そのような競争優位性を継続的に実現するには、「競争優位性の源泉」として、社内に蓄積されたノウハウ(効率的なオペレーションや優れた人材教育プログラムなど)のような強みが必要になります(図表1)。
図表1:競争優位性
競争優位性の源泉は外部からは見えにくい分、競合に模倣されにくいというメリットはありますが、ノウハウが蓄積されるまで時間がかかるため、長期的な視点で構築する必要があります。
また、事業が順調に成長している企業は、次々と斬新な商品を開発・リリースすることで売上を伸ばしたり、シナジー効果のある会社を買収したりすることによる事業規模拡大など、その企業独自の成功パターンを実践することで、持続的に成長していることが多いです。
そのような自社の成功パターンが何であるのかを明らかにし、今後もその成功パターンは通用するのか、あるいは環境変化に合わせて方向転換する必要があるのかを分析します。
② 弱み(自社の課題・問題点)
ビジョンを達成するために克服すべき弱みも分析する必要があります。
強みと違い、弱みは聞けば聞くほど、たくさん出てくるケースが多いです。
しかし、弱みの克服には時間がかかるため(すぐに克服できる弱みは既に解決している)、どの弱みに着目して対策するかは、自社の描くビジョンとの関連性や重要性・緊急性によって決めることになります。
では具体的に内部環境を分析する手法をご紹介しましょう。
●バリューチェーン
バリューチェーン分析とはマイケル・ポーターが提唱したもので、図表2のように事業活動を主活動と支援活動にわけて、どの活動で顧客に提供する価値が生み出されているかを分析するフレームワークです。
図表2:バリューチェーン
上記は製造業をイメージしたバリューチェーンですが、自社の事業内容に応じて、各活動内容を変更してください。
分析は下記の手順で行います。
(1)自社の主活動・支援活動において、どのような活動があるか整理する
(2)それぞれの活動内容を具体的にする
(3)その活動で顧客に提供している価値を明らかにする
自社がこだわっていることは何か?
競合がやっていないこと、差別化できていることは何か?
(4)その活動の問題点や課題を明らかにする
各活動では何らかの価値を生み出しているはずです。
逆に何も生み出していない活動は、無くしたり減らしたりすることはできないか、あるいは外注に出すことはできないか、などを検討します。
分析した結果の(3)が自社の強み、(4)が弱みになります。
●財務分析
過去の決算書3期分程度を分析します。
分析する観点は、「収益性」、「効率性」、「安全性」、「成長性」などがあり、競合や業界平均と比較することで、財務上の強みと弱みを把握することが目的です。
【収益性】
企業の稼ぐ力を分析するもので、下記の指標などがあります。
・売上高総利益率
・売上高営業利益率
・売上高販売管理費率
【効率性】
企業の資産をどれだけ有効活用できているかを分析するもので、下記の指標などがあります。
・総資本回転率
・売上債権回転期間
・棚卸資産回転期間
【安全性】
財務の構造上、短長期における支払い能力や負債依存度を分析するもので、下記の指標などがあります。
・流動比率
・固定長期適合率
・自己資本比率
【生産性】
従業員や設備をどれだけ効率的に活用できているか分析するもので、下記の指標などがあります。
・従業員一人当たり売上高
・有形固定資産回転率
・労働生産性
【成長性】
過去から現在にかけて企業の成長度を分析するもので、下記の指標などがあります。
・売上高伸び率
・経常利益伸び率
・総資産伸び率
自社と比較する業界平均の指標は日本政策金融公庫のサイトで業種別に掲載されています。
https://www.jfc.go.jp/n/findings/sme_findings2.html
財務分析を行うことで、財務上、自社のどこに問題があるかがわかるため、ポイントをしぼって原因を分析し、対策を打つことが可能です。
●ABC分析
ABC分析とは、金額や件数などを重要度の高い順番に並べてランク付けを行い、自社の経営資源を何に注力するか分析する手法です。
例えば図表3は商品別売上高のABC分析になります。
下記の例では累計構成比において0~60%をAランク、61~90%をBランク、91~100%をCランクとして扱っていますが、その割合は調査目的や調査対象に合わせて決めます。
図表3:ABC分析
図表3から読み取れることは、ランクAの商品だけで売上高の50%を占めており、自社が注力すべき商品は商品a・bであることがうかがえるでしょう。
また、ランクBは商品の改良や売り方を変えることで売上増加を図る、ランクCは在庫を無くしたり廃番にしたりするなど、ランクに応じた対策ができるようになります。
以上のような手法を用いて、内部環境を分析します。
基本的には強みを伸ばして、弱みを克服することが大切ですが、マクロ環境やミクロ環境の分析結果と合わせることで、自社のあるべき姿・ビジョンを実現するために必要な戦略・計画を立てる必要があります。
中期経営計画はそのために必要となるものです。
次回は、その中期経営計画を作成する手順について解説します。
※図表:1、図表:2、図表:3は谷口自作による。