第64回 フリーランス新法の影響と実務対応のポイント|経営事典|マネジメントNavi|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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経営事典

2024.11.26公開

フリーランス新法の影響と実務対応のポイント

近年、働き方の多様化に伴いフリーランスという働き方が広がりを見せる中、2024年11月より「フリーランス新法」が施行されました。この新法により、企業側には契約内容の明示義務やハラスメント対策など、新たな実務対応が求められています。今回は、フリーランス新法の概要と、中小企業が対応すべき実務のポイントについて解説します。

1.フリーランス新法の概要

▽新法の制定背景と目的
2024年11月から「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)が施行されることになりました。
この新法の制定背景は、働き方の多様化が進展し、近年フリーランスという働き方が普及してきたことにあります。
同時にフリーランスの様々な問題点も顕在化してきたことから、フリーランスとの取引における取引の適正化と、業務を行う個人が安心して働ける就業環境の整備を図ることを目的として施行されることになりました。

▽フリーランスを取り巻く現状と問題点
前述の問題点とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
フリーランスは労働者でなく事業者として業務委託を受ける形態で働きますが、個人の交渉力が弱い立場であることが多く、報酬未払いや遅延、ハラスメントなど不当な扱いが商習慣として横行していました。
従来も報酬未払いや遅延といった下請事業者に不利益を与える行為を禁止する法律として「下請法」がありましたが、委託事業者が資本金1,000万円以下である場合や仕事の内容が下請構造でない場合は適用されませんでした。
また、働き方としては雇用に近い働き方にもかかわらず、労働法による保護の対象にはなりづらいことから、育児介護と業務の両立に対する配慮やハラスメントの防止策がなく、特定の職種以外は労災保険が未対応といった問題もありました。

2. 新法の適用範囲と対象者

▽新法の制定背景と目的
この新法によって守られるのは、「特定受託事業者」(フリーランス) です。
「特定受託事業者」とは、「業務委託の相手方である事業者のうち、従業員を使用しない個人か、一人法人」がこれに該当します。
つまり、個人、法人関係なく一人で業務委託を受けて事業を行っている者が「特定受託事業者」として保護されることになります。

▽適用対象となる取引と対象外の取引
この新法の適用対象となる取引は、業種・業界の限定はなく、発注事業者からフリーランスへ委託する全ての業務が対象となります。
企業間取引(いわゆるB to B)の委託取引のみが対象で、フリーランスと一般消費者(いわゆるB to C)との取引は対象外となります。

▽中小企業への影響
この新法は発注事業者からフリーランスへ委託する全ての業務が対象となるため、「下請法」では対応が必要とされなかった資本金の企業、またフリーランス自身がほかのフリーランスへ発注する場合も対象となるため適用範囲は広く、従来必要のなかった書面等による契約内容の明示が義務付けられるなど取引に関する実務に与える影響も大きくなることが想定されます。
また、新法施行に未対応の場合、フリーランス側からの紛争提起がなされる可能性があります。

3. 発注側の義務

発注側として義務付けられる内容は、発注側の従業員等の有無、業務委託の期間に応じて規制が増える内容になっています。(下図参照)
事業者間の取引(業務委託)の図 図の内容は、この後の本文で説明しています
【出典元】
内閣官房新しい資本主義実現本部事務局・公正取引委員会・中小企業庁。厚生労働省
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)
令和6年11月1日施行説明資料より。

【全ての発注者が対象】
▽書面等による契約内容の明示義務
フリーランスに対し業務委託をした場合は、直ちに取引の条件を書面、または電磁的方法により明示しなければなりません。
取引条件を明示する方法は書面か電磁的方法のみが認められ、どちらの方法とするかは発注事業者が選択できます。(電話など口頭で伝えることはできません)
必ずしも「契約書」である必要はないですが、下記内容は明示すべき事項となっています。
「当事者の商号、名称など」「委託日」「仕事内容」「期限・場所」「検査完了日」「報酬額・支払い期日・支払い方法」など、
契約時点で未定事項がある場合、未定となる理由や明示予定日を示し、内容が決まったら改めて補充の明示をします。
SNSのメッセージ等電磁的方法を用いて書面を交付することも可能ですが、スクリーンショット等で明示された内容を保存してもらう、あるいはダウンロード機能を持ったサービスを用いるなどして、フリーランスが保存できるようにしておく必要があります。

【発注者が特定業務委託事業者のみ対象】
▽3つの義務
発注事業者のなかでも個人であって、従業員を使用するもの、法人であって、役員がいる、または従業員を使用するものについてはフリーランスとの交渉力に差が生じることから以下の3つ内容が義務づけられます。

①報酬の支払い期限の設定
発注事業者は発注した給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、支払 期日を定めて、その日までに報酬を支払わなければならないとされています。
再委託の場合は元委託支払い期日から30日以内のできる限り短い期間内で定めることができます。
②募集情報の適切な表示
発注事業者は、広告等によりフリーランスを募集する際は、その情報について、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないとされています。
③ハラスメント対策の義務化
ハラスメントによりフリーランスの就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければなりません、また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として 不利益な取扱いをしてはならないとされています 。

【発注者が特定業務委託者かつ、1か月を超える契約が対象】
▽禁止事項
さらに特定業務委託事業者(発注者)が1か月を超える契約をする場合、禁止事項が課せられます。
① 特定受託事業者(フリーランス)の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

【発注者が特定業務委託者かつ、6か月を超える契約が対象】
▽育児介護等の配慮、中途解約等の予告
特定受託事業者が育児介護等と両立し業務委託に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮 をしなければならないとされています。
また、(6か月 以上のもの)を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならないとされています。

4. 中小企業経営者が取るべき実務対応

▽契約締結までのプロセスの見直し
この新法に対応する際の契約締結までのプロセスとして今後下記内容を確認する必要があります。
①業務委託先に従業員がいるか、役員がいるかどうかの事前確認
②委託期間が1か月未満か、あるいは6か月未満かどうか
③委託内容の業務内容が実態として「労働者」となっていないか。
特に③について、労働関係法令の適用を免れる目的で、契約形式だけを業務委託契約とする、というような、兼業・副業や、定年退職後に業務委託契約を締結する場合には注意が必要です。

実態として労働者である場合は、この新法ではなく労働関係法令が適用され、税金関係でも指摘を受ける可能性があります。

↓今回のコラムを書いたのはこの方↓

土居 伊子(どい よしこ)氏

土居 伊子(どい よしこ)氏

土居労務管理事務所 代表
大阪府よろず支援拠点 コーディネーター

2007年 社会保険労務士合格
2014年 中小企業診断士合格
2023年 特定社会保険労務士合格

2014年、社会保険労務士・中小企業診断士として独立、10年目を迎える。
独立開業前はゼネコンでの社会保険関連業務、不動産・建物管理会社にて、グループ会社含む経理・総務全般を統括管理、プロパティマネジメント事業での賃貸物件取得時及び運用の際のシミュレーション業務他、業務改善、人事面では退職金制度の・評価制度などの導入に携わる。
現在、中業企業を中心とした顧問先をはじめ、公的機関のコーディネーターとして幅広い経営支援に携わる。
【セミナー・講演講師】
自身の社会保険労務士としての経験を活かし、労務管理、採用、コミュニケーション、創業支援、など採用、従業員教育・育成等の分野を得意とする。
セミナー登壇例
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