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新規な発明について、特許出願又は実用新案登録出願(以下、実用新案)を検討しています。どのような判断材料に基づいて、出願の選択などを含めた出願戦略を決めればよいですか?
取り得る選択肢のメリット・デメリットを踏まえ、競合のキャッチアップ抑止に有効な選択を行います。
発明をなした場合の選択肢は、(1)特許出願と(2)実用新案の何れかになります。特許出願を選択した場合、(1-1)早期権利化を目指すか(1-2)暫く出願を寝かせておくかを選択できます。また、出願書類について、特許の範囲の広さや、開発内容をどこまで記載するかを選択できます。
競合に対する牽制効果を考えた場合、当然ながら、(1)特許出願と(2)実用新案では前者が有効です。無審査で登録される実用新案とは異なり、特許庁の審査を通過した特許権は、その権利範囲において強い牽制効果が得られます。
但し、特許出願は、審査で特許性(新規性・進歩性)が認められなかった場合に拒絶査定となり、その時点で牽制効果が失われるリスクがあります。一方で、実用新案は、特許庁に年金を支払い続けることで、出願から10年後まで確実に存続して、牽制効果を与え続けることができます。
また、広い範囲の特許権を取得できればよいのですが、多くの場合、審査過程で、出願発明に似た又は関連した先行発明が見つかり、出願時から特許の範囲を狭めて権利が成立している実情があります。そのため、(1-1)早期権利化の場合、競合が権利範囲を回避した類似品の開発に早期に着手できるようになる虞があります。
一方で、早期権利化のメリットは、模倣品が出てきた場合にすぐに警告でき、また損害賠償の起算日が早くなる点です。従って、早期権利化は、製品ライフサイクルが短い場合は有効ですが、出願から製品販売まで時間がかかる場合は有効とは言い難いですし、製品の普及に時間がかかる場合は、差止めはできるものの、損害賠償の金額は見込めません。
また、(1-2)暫く出願を寝かせておく場合は、出願から1年以内であれば、出願内容の追加・修正が可能です。そのため、開発過程にある場合、早期権利化はお勧めできません。
なお、「特許は難しいから、実用新案」といったことを聞くことがありますが、実は、特許出願と実用新案では、模倣者への警告に必要な特許性(進歩性(容易に発明を思いつかないとの要件))のハードルの高さは同じです。そのため、容易な発明で警告できるようにとの考えで、実用新案の選択はありえません。
また、出願書類において、特許の範囲を広く記載することで、競合に対して牽制範囲が広がります。しかし、特許の範囲を広く記載しすぎた場合、円滑に審査が進まない虞があります。また、開発内容を出願書類に詳細に記載した場合、審査過程で特許の範囲について修正の余地が広がり、権利化できる可能性が高まります。しかし、製品を見ても容易に分からない製造方法などのノウハウを記載すると、競合の技術力向上を招く虞があります。
以上のメリット・デメリットを踏まえ、出願から製品販売まで時間や、製品普及の時間を予測した上で、競合のキャッチアップ抑止に有効な選択肢を考える必要があります。
なお、本内容は、出願戦略の考え方の1つである点に留意して下さい。
(回答日:2024年10月15日)