今までいただいたご質問の中で多かった質問とその回答例です。
詳細画面から専門家に、メール相談や直接会っての面談などを申し込むことができます。
システム開発を業務委託し、契約書を取り交わす予定です。締結しようとしている業務委託契約書に知的財産の取扱いについての条項がありません。この場合、システム開発において発生した特許発明やプログラム著作物はどのように扱われるのでしょうか。また、契約書で定めるとすれば、どのように定めるべきでしょうか。
契約で定めていない場合には各法令の適用及び解釈に委ねられますが、契約で明確に定めるべきです。
当事者間で業務委託契約書に知的財産の権利帰属を契約で定めていない場合、委託業務において創出された知的財産権の帰属は、知的財産を保護する各法令の適用や解釈に委ねられます。
例えば、当事者間でシステム開発委託契約を締結したものの、締結した開発委託契約書に著作権の権利帰属の条項が無い場合、委託業務の過程で受託者が創出したプログラム著作物については、当該著作物を創出した受託者が著作者となり、受託者に著作権が帰属することとなる可能性が高くなります。
ただ、そうなると、委託者は、システム開発を委託したにもかかわらず、プログラム著作物の利用につき受託者からの許諾を得ていない限り、プログラム著作物を利用できないということになりかねません。
他方、受託者としても、契約書に権利帰属の条項が無い場合には、自社にとって思わぬ結論となる可能性に留意すべきです。法令に基づく権利帰属の要件において、例えば、著作権法でいう創作者性など、微妙な判断を伴うものも多いからです。
上記は一例ですが、このように、システム開発のみならず、製品の製造委託契約など、委託業務の中で何らかの知的財産が得られる可能性がある場合には、創出された知的財産をいかに取扱うか、契約書において明確に定めるべきです。
知的財産の権利帰属に関し、契約書の定めとしては、大きく、委託者帰属、受託者帰属とする場合が考えられます。個々の業務内容や立場に応じた利害得失を踏まえて取り決めるべきです。
そのうえで、まず、知的財産が委託者帰属となる場合には、以下の点に留意してください。
著作権法上、翻案権(著作権法27条)及び二次的著作物の利用権(著作権法28条)は、譲渡の対象とすることの明示がないと、譲渡した者に留保されたものと推定されます(著作権法61条2項)。そのため、委託者としては、成果物の改変などを行いたい場合には、契約書の条項における文言として、「著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)」などと明記するなどの対応が必要です。
また、著作権法上、著作者人格権は、著作者に一身専属的に帰属し、第三者に譲渡することができないので(著作権法59条)、受託者が著作者となる場合には、受託者が著作者人格権を行使しない旨の特約を設けることが必要でしょう。
さらに、委託者からの技術開発委託の際など、委託者からの業務委託に基づく業務以前に受託者が保有していた知的財産権の取扱いを定めることを検討する必要がある場合もあるでしょう。
一方、知的財産が受託者帰属となる場合、業務委託契約における委託業務の内容に応じ、委託者としては、知的財産の実施・利用ができるよう、受託者から許諾を受けておく必要があります。この場合には、実施可能な範囲や許諾の対価等の条件を定めることとなります。
上記以外に、知的財産の権利帰属の取り決めにあたり、受託者の事業活動を制限する場合は、その制限の態様や内容によっては、独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する場合があるのでこの点も注意が必要です。
また、業務委託契約を締結する当事者間に規模の違いがある場合、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の対象となることがあります。委託者が下請法の親事業者に該当する場合には、下請法への留意も必要となります。
(回答日:2024年8月23日)