今までいただいたご質問の中で多かった質問とその回答例です。
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取引先と契約をするときには,契約書を交わす必要がありますか。契約書を作らなかったり,契約書に署名押印をしなかった場合,契約は成立するのでしょうか。
契約は,契約書がなくても当事者の合意があれば成立します。しかし,契約書があれば,契約の成否や内容をめぐって後日トラブルになるのを防止するのに役立ちます。契約書に当事者がそれぞれ署名や押印,特に実印を押印していれば,更にトラブルの防止に効果があります。
1.契約の成立要件
契約とは,売買や貸借など何らかの法的効果が発生する当事者間の合意のことです。契約書を作成する必要はなく,内容について当事者間の合意があれば成立します。
2.契約書作成が望ましい理由
しかし,一般に契約については,「契約書を交わした方がいい」とされています。なぜでしょうか。
上記のとおり,契約は何らかの法的効果が発生する合意ですから,契約をめぐってトラブルになったときは,最終的には法的なトラブルを解決する国家機関の判断,つまり裁判所の裁判で決着させることになります。そして,裁判では,契約の成立・内容を「証明」しなければなりません(「証明」とは,ある事実が間違いないと裁判官に確信してもらうことです。)。
では,契約したが契約書を交わしていないという場合,契約の成立・内容の証明はできるでしょうか。
契約時のやりとりが録音でもされていれば別ですが,口頭での合意だけでは,言った言わないの水掛け論になってしまうでしょう。これでは裁判官に契約の成立・内容について確信を持ってもらうことはできません。そして,契約の証明に失敗した場合,裁判では契約は「なかった」ものと判断されます(これを証明責任といいます)。
そこで,契約の成立・内容を証明するための手段(証拠)として,契約書を作成することが重要だとされているのです。言い換えれば,契約書は証明の手段に過ぎませんから,他の手段,例えば,録音やメールその他契約書以外の書面でのやりとり,口頭での合意を前提とした既成事実の積み重ねなどによって,契約の成立・内容が証明される場合もあります。しかし,そのような証明手段は,一般に労力がかかりその結果も不確実です。契約書の作成は,契約後のトラブル防止に最も役立つツールといえるでしょう。
3.契約書への署名・押印,特に実印の押印が望ましい理由
さて,契約書に署名・押印があるかどうかでどのような違いがあるでしょうか。契約の当事者が,「契約書が本物であること」,つまり,契約書が当事者の意思に基づいて作成されたことを認めていれば,署名・押印がなくても契約書どおりの契約が成立したと認められます。
しかし,当事者のどちらか一方が,「この契約書は自分が知らない間に作成されたニセモノの契約書だ」と主張した場合はどうでしょうか。当然のことながら,契約書は本物でなければ,契約の証明手段としての意味を持ちません。契約を証明するためには,「契約書が本物であること」を証明しなければならないのです。
そして,契約書が本物であることを証明するための重要なポイントが,当事者自身の「署名」又は「押印」の有無です。このうち,「署名」については,その真偽を判定することは容易ではありません(最終的には筆跡鑑定が必要です)。これに対し,「押印」については,日本では実印(印鑑登録)制度があり,実印が押印された書類については,容易に「契約書が本物であること」を証明できるとされています。もちろん,実印以外の印鑑(いわゆる認め印など)でも押印は可能ですが,「その印鑑は自分の印鑑ではない」とか,「勝手に誰かが自分の印鑑を使った」という弁解を封じるには,実印の押印が最も効果的です。なぜなら,日本では,実印が慎重に保管され,みだりに他人に使わせないという習慣があるからです。
したがって,契約書が本物であることを容易に証明し,ひいては契約の成立・内容を容易に証明するため,契約書には,当事者が実印を押印することをお勧めします(もちろん,署名もあれば更に安心ですが)。