今までいただいたご質問の中で多かった質問とその回答例です。
詳細画面から専門家に、メール相談や直接会っての面談などを申し込むことができます。
20年ほど前から工場を賃借して会社を経営していますが、最近家主から立ち退きを求められ、一方的に期限を示されました。立ち退く必要はあるのでしょうか?
家主さんの明渡請求に「正当事由」がない限り、工場を明け渡す義務はありません。
民法及び借地借家法の適用
あなたと家主さんの建物賃貸借契約には、民法及び借地借家法が適用されます。
借地借家法28条によれば、建物の賃貸人は、賃貸している建物を自分で使用する必要が生じた場合や、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、立退料の支払の申出等の事情を考慮して、「正当事由」がなければ解約の申入れをしたり、賃貸借契約の更新拒絶をすることができない、と定められています。
1. 賃貸している建物を自分で使用する必要が生じた場合の判例
「家主が自分で使用する必要が生じた場合」という自己使用の必要性について、これまでの判例に照らせば、単に漠然と将来的に当該建物で事業を行なうといったものでは、当該要件を充足しないと判断されるものと思われます。
居住用の建物について、賃貸人側の現居宅が狭く、その営業上・生活上不自由である場合であっても、賃借人側の使用の必要性が強い等、諸般の事情を考慮し、たとえ賃貸人側が100万円の立退料を支払ったとしても、正当事由があるとは認められないとした判例もあります(大阪地裁昭和59年5月30日)。
2. 立退料について
立退料の提供をすることによって、正当事由を補完することは判例も認めているところです。一定額の立退料の支払と引き換えに家屋の明渡しを命ずる判決もかなり存在しています。
では、立退料が幾らであれば正当事由があると判断されるのでしょうか。
結論的には、個々のケースにより全く異なるものであって、一概に幾らといえるものでありません。
具体的な立退料の適正額は、賃借人が、借家権が消滅するまでの間、賃借人が享受しうるであろう経済的利益等を基準にして、当事者間の事情(例えば、正当事由の有無・程度、賃貸借の経緯等)を考慮して決められます。一般的には、立退料の鑑定評価を適切に行なうことのできる不動産鑑定士等にその算定を依頼することになります。
(ただ、当事者が合意しているのであれば、必ずしも立退料額が適正である必要はありません。)
以上の諸事情を総合考慮して「正当事由」の判断がなされますので、単に自己使用の必要があるからとか、立退料を提供したからとかだけの事情で、賃借人として明渡の義務が生じることにはならないことにご注意下さい。