1.「民事再生手続」は、主に中小企業を対象にしたいわゆる再建型倒産手続の基本型です。その主たる特色は、①現経営陣による経営、②再生手続開始前の債務につき一定の債権カット、の2点にあります。 |
(1) 倒産法制の概要
我が国の倒産法制は、大きく分けて清算型と再建型の2つに分類されます。
①清算型倒産手続
既に債務超過に陥った企業を解体・清算して業務を終了させる手続のことで、次の2つがあります。
a.破産手続
b.特別清算
②再建型倒産手続
再建型倒産手続には、会社更生手続と民事再生手続の2つがあります。
a.会社更生手続
会社更生手続は、担保権の実行を阻止しうるなど強力な効力を有する反面、対象は株式会社に限定され、更にその中でも有用な業種で大規模な会社であることが必要とされています。経営権が管財人に移り現経営陣による経営は望めません。
b. 民事再生手続
以下に項を改めてご説明します。
(2) 民事再生手続
① 再建型手続の基本
民事再生手続は、その適用対象は株式会社に限定されず、財産保全命令や強制執行の中止などを裁判所が命ずることができて手続の効力も強力でありながら、現経営陣による経営継続が可能であることから、再建型手続の基本手続といってよいものと思われます。
② 民事再生手続の概要
民事再生手続は、清算価値保証原則という理念のもと、当該企業(又は個人)が破産して全財産を換価処分したと仮定した場合の価値(清算価値)を超える金額を弁済する内容の再生計画案を作成し、通常は複数年にわたる分割弁済を行います。
例えば、ある企業の負債の額が5000万円あったとします。その企業が破産して全財産を処分したと仮定すると2000万円になるとします。この場合、再生計画案は、2000万円を超える金額(例えば2100万円)を10年分割で弁済する計画にする必要があるのです。そして、再生計画が認可され、当該再生計画が計画どおり履行されると残りの負債の2900万円は免責を受けることができます。これが民事再生手続の大まかなイメージです。
③弁護士費用・予納金
その他細かな要件等については、具体的な事例ごとに異なりますので、一度弁護士に相談して頂ければと思います。ちなみに、大阪弁護士会の報酬規定(※)によりますと、着手金が100万円以上(事業者の場合)、報酬金が再生手続によって得られる経済的利益の4%ないし16%となります。
このほか、申立には裁判所に予納金を納付する必要があり、大阪地裁の場合、(負債の額によって変わりますが)100万円単位の金額は必要です。
(※大阪弁護士会の報酬規程は平成16年4月1日に廃止されております。従って、実際にご依頼される場合の費用は、個別案件毎に個々の弁護士にご相談頂くこととなります。)
2.「民事再生手続」のうち、住宅ローンを除く負債総額が5000万円以下の個人については、より簡易な「個人再生手続」を選択することができます。この「個人再生手続」は、その収入の内容等により、「小規模個人再生手続」と「給与所得者等再生手続」の2つに分かれます。 |
① 対象者
小規模個人再生手続及び給与所得者等再生手続は、いずれも住宅ローンを除く負債総額が5000万円以下の個人についての手続ですが、
前者は個人事業主を典型例とする「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」がある者を対象とし、後者はサラリーマンを典型例とする「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれる者」を対象としています。後者は前者の特則ですから、サラリーマンであっても給与額の変動幅が小さいと見込まれない者については、小規模個人再生手続を利用することになります。
② 小規模個人再生手続及と給与所得者等再生手続の違い
a. 許可要件
再生計画の認可要件が、小規模個人再生手続の場合は「清算価値以上の弁済額を確保すること」と
「住宅ローン以外の債権が3000万円を超え5000万円以下の場合は債権額の10分の1、住宅ローン以外の債権が3000万円以下の場合は債権額の5分の1(ただし上限300万円)又は100万円(ただし債権額が100万円を下回る場合はその全額)のいずれか多い額」の2つであるのに対し、
給与所得者等再生手続の場合は、これに「弁済額が可処分所得の2年分以上であること」という要件が加えられるという点です。
b. 再生計画案
再生計画案について、小規模個人再生手続では債権者に議決権があるのに対し、給与所得者等再生手続においては債権者に議決権はなく、単に意見を表明することができるにとどまる点です。なお、小規模個人再生手続において再生計画案に反対するという回答をした債権者が半数を超えた場合、再生計画案は否決され民事再生はできなくなります。
③ 個人再生手続のメリットと注意点
a. 個人再生手続のメリット
住宅ローンを有する再生債務者が住宅ローン特別条項を定める内容の再生計画を作成すると、
住宅ローン以外の債務につき一部免除を受けて、3年ないし5年の分割弁済ができ、住宅ローンについても弁済期間を延長するなどして月々の返済を軽減することができるメリットがあります。
b. 住宅ローンは債権カットにならない
この個人再生手続の利用を検討する際に注意して頂きたいのは、住宅ローン債権は再生計画による権利変動(債権カット)の対象とならないという点です。
「個人再生手続のメリット」でご説明したとおり、住宅ローン特別条項を定めた再生計画が成立した場合には、再生債務者がその再生計画どおりに住宅ローンの返済を継続している限り、住宅等に設定された抵当権の実行(競売の申立)を回避することができるのですが、その反面、住宅ローン債権者は、住宅ローンの元本・利息の全額の支払いを受けることができることとされているのです。
再生計画によって住宅ローン以外の債務について返済の負担が軽くなる分、住宅ローンは全額を支払い続ける必要があるということです。
④弁護士費用・予納金
以上の点を踏まえて、手続の利用について考慮いただければと思いますが、小規模個人再生・給与所得者等再生の手続を利用する場合の弁護士費用は、大阪弁護士会報酬規定(※)によれば、着手金が20万円以上で、得られる経済的利益に応じて報酬金が発生することになります。
このほか、会社の民事再生手続と同様に裁判所に予納金を納付する必要があり、その金額は大阪地裁の場合約2万円です。
(※大阪弁護士会の報酬規程は、平成16年4月1日に廃止されております。従って、実際にご依頼される場合の費用は、個別案件毎に個々の弁護士にご相談頂くこととなります。)
(回答日:2024年11月11日)