今までいただいたご質問の中で多かった質問とその回答例です。
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株式譲渡方式にて、M&Aの実施を検討しておりましたが、デューデリジェンスをおこなった結果、労働条件の明示は口頭で行われているのみで、かつ出勤簿、賃金台帳も不完全な記載内容で保管されていました。簿外債務の把握ができないため、事業譲渡方式に変更する方向で考えています。従業員の受け入れという視点で、どのような点に留意すればよいでしょうか。
前向きに転籍の意思決定ができる環境づくりに注力しましょう。
事業譲渡によるM&Aは、個別承継が可能となり、簿外債務・偶発債務のリスクを分離することができます。質問内容のように労務管理が適切に行われていない場合、未払賃金等の簿外債務の把握ができません。またデューデリジェンスの結果、多額の簿外債務が確認された場合、事業譲渡方式で買収交渉を行うことも一つの選択肢になります。
株式譲渡は、株主・経営者が変わるのみであり、働いている従業員の身分・労働条件に変更は生じません。それに対して事業譲渡においては、いったん譲渡会社を退職し、譲受会社に入社することになるため、個別に従業員との間で転籍同意をとり、新たに譲受会社と雇用契約を締結します。譲受会社から見た場合、転籍時に従業員の選別が可能であるというメリットがありますが、多くの従業員が転籍を拒否した場合、事業運営に支障が生じるケースもあります。新たな人材獲得がままならない場合もあり、スムーズに従業員が転籍する意思決定ができるよう働きかけを行うことが重要になってきております。
2016年9月に「事業譲渡または合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」(以下「事業譲渡指針」という)が厚生労働省から発出されています。事業譲渡によって、従業員を受け入れる場合は、事業譲渡指針の内容を理解した上で、受入れ準備を進める必要があります。(https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/000477350.pdf)
事業譲渡の場合、一般的に転籍前の退職金・未払債務・勤続年数を承継する必要がありません。また従業員が働く上で重要なこれまでの勤務時間・休日・休暇・賃金等も同一条件にする必要はありません。
従業員に対して転籍の意思決定ができる環境づくりをしていくという点では、勤務時間・休日は譲受会社に合わせるとしても、転籍前の労働条件の維持、サイニングボーナスや有給残日数の引継ぎ等も含め、転籍時の労働条件の内容を事前に検討しましょう。その上で、事業譲渡発表後に実施する従業員説明会や個別面談で、事業を譲受けた理由や将来のプランとともに、前向きな意思決定ができるような環境づくりをしていきましょう。
(回答日:2024年8月28日)