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従業員が工場での作業中、居眠りをしたことにより操作を誤って工場の機械を破損させ、会社に多額の損害が発生しました。会社は、従業員に対して損害全額の賠償を請求することができるでしょうか。
賠償額については、公平の見地からの制限を受けることがあります。
従業員が居眠りによる操作ミスという過失によって、会社に損害を与えていますので、会社は、債務不履行(民法415条、416条)又は不法行為(709条)による損害賠償を請求することになります。
しかし、会社の使用者の指揮命令に基づいて労務を提供している中の損害賠償事案においては、従業員に過失があったとしても損害の発生が一定の確率で発生するような性質のものである場合には損害賠償責任を認めず、故意又は重大な過失がある場合に限り損害賠償責任を認める判断や、信義則(民法1条2項)などを理由として、会社から従業員に対し請求できる賠償額を制限する判断がなされています。
例えば、従業員のタンクローリー事故に関し、使用者が負担した賠償額を従業員に求償した事件(最判昭和51.7.8)では、信義則上相当と認められる限度において、損害賠償請求ができるとし、会社が車両につき対人賠償保険のみに加入し対物賠償責任保険及び車両保険に加入しなかったこと、事故を起こした従業員が主として小型貨物自動車等に従事しタンクローリーには臨時的に乗務していたにすぎないこと、従業員の勤務成績は普通以上であったことなどの事実を認定し、求償額を損害額の4分の1に制限しています。
また、従業員が深夜勤務中の居眠りにより操作を誤って機械を破損した事件(名古屋地判昭和62.7.27)においても、従業員の重過失があったため会社は従業員に対して損害賠償を請求できるとしつつ、会社が機械保険に加入するなどの損害軽減措置を講じていないことや従業員に同情すべき点があることなどを指摘し、信義則及び公平の見地から、損害額の2割5分に限って賠償責任を認めました。
従業員に重過失がある事案といえますが、会社側が保険加入をしていない、十分な管理体制を行っていない等の状況があり、居眠りにあたり深夜作業が続いていたなど労働者側の事情が加味されれば、上記裁判例のように大幅な賠償額の制限がされる可能性があります。