今までいただいたご質問の中で多かった質問とその回答例です。
詳細画面から専門家に、メール相談や直接会っての面談などを申し込むことができます。
テナント物件を借りているのですが,この度賃貸借契約を解約し退去しようとしたところ,壁・天井等の内装を全て新しく取り替えるので,そのための原状回復費用を負担して欲しいとオーナーから言われました。負担する必要があるのでしょうか。
通常使用によって生じた汚れについては,負担する必要がないのが原則です。
基本的には,通常使用によって生じた汚れ等であれば,賃借人が原状回復費用を負担する必要はないのが原則です。
近時の裁判例(特に居住用の民間住宅)によれば,原状回復とは,賃借人の居住,使用により発生した建物価値の減少のうち,賃借人の故意・過失,善管注意義務違反その他通常の使用を越えるような使用による損耗・毀損を復旧することを意味するとされています。
すなわち,賃借人の原状回復義務につき,賃借人が賃借物を契約により定められた使用方法に従い,かつ社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろうという状態に止まるのであれば,たとえ使用開始時の状態より悪くなっていたとしても,そのまま賃借人に返還すれば問題なく,原則として原状回復費用を負担するいわれはないと考えられます(それらの損耗は契約内容に織り込み済みであり,既に賃料負担の中に含まれているということです)。
もっとも,賃貸借契約の中には,原状回復について契約締結時の状態に復旧する等の「特約」が規定されている場合があります。賃貸借契約に内装の取替費用等を負担する特約がある場合は,その特約通り全額負担しなければならない可能性があります。
この点,事業者ではなく一般消費者が賃借人である原状回復義務については,そのような特約自体を消費者契約法の規定によって無効とする裁判例もあるのですが,事業者が賃借人である場合,上記一般消費者の場合とはやや趣を異にします(例えば,東京高判H12.12.27など)。必ずしも裁判例が一致しているわけではないのですが,事業者が賃借人の場合は上記特約が有効と判断されることがあることを十分意識する必要があります。
なお,原状回復の範囲について家主側と口約束があった場合,法律上,口頭による約束も有効なものとして契約の内容となります。もっとも,そのような口頭での約束は「言った,言わない」の水掛け論となることも多いので,やはり契約書に明記しておくか,少なくとも何らかの証拠化(録音・メールの保存等)をしておくべきでしょう。
(回答日:2024年10月31日)