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消火器点検商法に関するトラブル

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  • 消火器点検商法に関するトラブル

    私は、自動車の販売修理業を営む株式会社(X)の代表取締役です。
     先日、大手消火器メーカーとよく似た名前の会社(Y)から、「いつもお世話になっております。消火器の充填期日が過ぎているので作業に伺います」という電話がありました。当社の従業員は、従前から消火器の点検をお願いしていた業者からの電話だと勘違いして、「期限が過ぎているようなら、来てください」と答えました。その後、Y社の者が来て、「消火器を引き取りますので、ここにサインをお願いします」と言って書類を差し出しました。当社の従業員は、いつもの業者だと思っていたため、よく確かめないまま、言われるままにサインをしてしまいました。
     ところがその後、その書面には、「消防用設備点検作業契約書」と書かれてあり、非常に高額の点検作業料等が記載されていたことがわかりました。
     Y社は、契約書をたてに、高額な点検料を請求し、支払わなければ消火器は返さないなどと言います。このようなやり方が許されるのでしょうか。何とかならないでしょうか。

    よく確かめなかったとしても、契約書を見てサインをしている以上、契約は成立しています。しかし、特定商取引法による訪問販売のクーリングオフ、あるいは詐欺取消などを主張し、消火器の返還を求めることができることもあります。


    1 特定商取引法の適用について

     消費者保護のための法(特定商取引法、消費者契約法など)は、原則として事業者には適用されないと考えておいたほうがよいでしょう。
     特定商取引法であれば、その26条1項1号が、「営業のために若しくは営業として締結」した契約にはクーリングオフ等の適用がないと定めています。

     しかし、本件と同様の事例において、大阪高等裁判所平成15年07月30日判決は、本件のような消火器点検の請負契約は「営業のために若しくは営業として締結」したものではないと判断して、特定商取引法を適用し、クーリングオフを認めました。
     その理由として、Xが消火器を営業の対象としていないこと、Xにとって消火器の点検が必要であるとしても、それは消防法の目的から必要とされるものであって、営業のために必要とされているのではないことを上げ、さらに、Yの行為が詐欺に該当することなども指摘しています。

     そもそも、クーリングオフが認められている趣旨は、訪問販売等の不意打ち的な勧誘に対して、考える時間を確保しなければ公正に反することがあるというところにあります。そして、営業のための契約についてクーリングオフの適用が除外されているのは、営業のための契約をする者はその業務については専門家であり、また利潤を上げるために業務を反復継続しているのであるから、訪問販売等であっても不意打ちにならないと考えらるためです。
     とすれば本件は、Yの行為は明らかに不意打ち的であり、Xは消火器についての専門家でもなく、また、Xが消火器を備えるのは公益のためであって、利潤のために反復継続しているわけではないのですから、クーリングオフの趣旨が及ぶ場面であると言えるでしょう。

     クーリングオフは、原則として8日以内に行う必要があります。なお、法定書面(クーリングオフが可能であることや、契約の詳細な内容などを記載した書面。特定商取引法4条、5条等)の交付がない場合は、クーリングオフ期間の進行が始まりませんので、8日を過ぎてもクーリングオフが可能です。

     クーリングオフの効果として、既に役務が提供された後にクーリングオフをした場合でも、その提供された役務の対価を請求することはできません(特定商取引法9条5項)。本件では、Yが既に消火器を点検済であったとしても、クーリングオフがなされれば、Xがその対価を支払う必要はないと考えられます。


    2 詐欺取消について

     詐欺による意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。
     上記判例は「念のために付言」として、本件では詐欺取消も可能であったと判示しています。
     なお、一般的には、詐欺の立証には困難が伴うとされています。一般的な取引との境界が明確ではないからです。本件のような案件であれば、しっかりと相手方の発言や、消火器を持ち出したときの態様について記録を残しておきましょう。


    3 今後の方策について

     まずはすぐに、内容証明を送ることをお勧めします(内容証明の文面については、「よくある質問」コーナーに書式例がありますので、参考にしてください)。

     本件のような事例であれば、YがXに対して点検料を請求する裁判を起こしてくることは少ないでしょう。また、Xが点検料を支払わないからといって、Yが消火器を他に転売できる理由は何もありません(例えば、修理のために時計を預かったときに、修理代金に争いがあるからといって、勝手に時計を転売してしまうことはできません)。実際にも、すぐに転売できるようなものでもないでしょう。
     したがって、Xが無償での返還の一点張りで申し入れを続けると、Yも手詰まりとなり、任意に返還されることもあります。安易にお金を支払うことはお勧めできません。

     仮に任意に返還してこない場合は、上記判例のように、消火器の返還や、返還されない場合の代償金を求めて裁判をすることも可能です。

     なによりも、あらかじめ、従業員に安易にサインをしないよう周知徹底し、また、判断に迷ったときの連絡方法について定めておくことが重要です。

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