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海外取引において、国際運送人に賠償責任があるにもかかわらず、海上保険(外航貨物海上保険)を付保する必要性がある理由を教えてください。
国際運送人の責任範囲は限定的であり、これを補うため海上保険を付保する必要があります。
貨物の輸送中における海難事故は世界中で頻繁に発生しており、年間1.1-1.8万件、
大規模な事故は数日に1件程度発生しているといわれています。事故の内容は衝突、座礁、沈没、転覆、漂流等と多岐に渡っており、一旦事故が発生すると人的損害、物的損害、自然環境の損害など、その影響は非常に大きくなります。近年ではスエズ運河での座礁事故(21年2月)や米ボルティモア港での衝突事故(24年3月)が大きく報道されました。コンテナ船の大型化、物流サービスの多様化等により、今後も海難事故のリスクは継続拡大するものと思われます。
荷主(又は買主)は運送人に国際輸送を委託します。大切な荷物を預け、有償での輸送を依頼する訳ですから、輸送中に事故が発生した場合、運送人は大きな責任をもっていると考える方が多いと思います。しかしながら、国際条約による運送人の責任範囲は「限定的」となっています。
海上輸送の場合【Hauge-Visbyルール/日本は1992年批准】
・過失のない火災は運送人免責、航海過失(運航上のミス)や海上危険(沈没/座礁/衝突等のマリ
ンリスク)は運送人免責、ただし整備不良のあった場合を除きます。
・商業過失(荷扱事故) 運送人に過失があれば賠償義務、ただし責任限度額あり:
SDR666.67/梱包 or SDR2/Kg、高い方 (SDR:IMF特別引出し権≒Yen154【24/7時点】)
・つまり運送人の賠償限度額は1梱包約10万円又は1Kg約300円の概算となり、
荷物の価値を十分カバーしていないケースも多いと思われます。
・又、共同海損(General Average: 危険回避のため、犠牲とした損害費用)が発生した場合、
荷主と運送人で負担する義務があります。
・尚、SDRは時間により変動する単位であり、円換算は参考値です。
・航空貨物の責任限度額【モントリオール条約】 SDR22/Kg(約3400円)
・更に国際商慣習である貿易条件「インコタームズ」を採用した場合、売主又は買主の役割とし
て海上保険への付保が求められている点も注意が必要です。
上記の通り、運送人の責任範囲は限定的であり、これを補う為、売主又は買主が当該貨物に対し海上保険(外航貨物海上保険)を付保する必要性があります。
海上保険の付保にあたり、詳細条件や保険料については、損害保険会社に相談ください。
(回答日:2024年8月30日)