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借入の際に利用できる「企業価値担保権」という新しい制度ができると聞きました。どのような制度ですか?また制度の狙いは何ですか?
企業価値全体に設定される新しい担保権です。
1.企業価値担保権とは
「企業価値担保権」とは文字通り、企業価値全体を担保に取るという新しい制度です。
2024年3月15日、「企業価値担保権」の創設に向けた新法案「事業性融資の推進等に関する法律案」 が閣議決定され、2024年6月7日、参議院本会議で可決・成立しました。
新制度開始は2026年の見通しとされています。
金融機関が企業にお金を貸すとき、通常は決算書などの財務内容を元に返済能力などを審査して、貸出可否や金額を決定します。そして、財務内容以外にも、貸出可否や金額に影響を与える要因があります。それが物的担保です。
不動産などの物的担保があれば、貸出先の企業の財務状況が仮に悪化した場合であっても、金融機関としては回収が可能なため、貸出に応じやすいです。
ただ、この方法には問題点があることが以前より指摘されてきました。どんな問題点か?というと以下の2点です。
(1)現時点で、財務内容がよくなく、また物的担保にも乏しいが、成長性のある企業が評価されず、必要な資金調達ができない懸念がある。
(2)企業の事業が順調に推移しなかった場合であっても、金融機関としては回収が可能であるため、金融機関が貸出先の業績に無関心になり、必要な支援をしなくなる懸念がある。
そこで、推奨されてきたのが「事業性評価」という考え方です。企業の財務内容だけ見るのではなく、その企業の事業内容や将来性を評価して、貸出可否などを行うべきだ、という考え方です。
金融庁のこの方針に沿って、各金融機関では、事業性評価シートなどを作成して、取引先企業の定性評価を行うようになりました。
ただ、財務内容と違って、「事業性評価」の手法等を標準化することは難しく、「事業性評価」がある種、ノルマのような扱いになり、形式的に事業性評価シートを作成して件数を数えているだけではないか?などの批判も一部で聞かれるようになりました。
2.企業価値担保権の狙い
このような課題認識の中で、「企業価値担保権」が議論されるようになりました。狙いは下記の2点です。
(1) 土地などの不動産をもたないデジタル関連などのスタートアップ企業であっても、企業の将来性が高ければ、成長資金を供給できるように環境を整備する。
(2) 貸し手側である金融機関に事業への関心を高めてもらい、タイムリーな経営改善支援が行われるようにする。
つまり、制度創設の目的とは、事業性評価融資を法制化することで、実効性を与えることです。評価される事業性としては、企業独自のノウハウや技術力、顧客基盤、取引データなどが想定されています。
(回答日:2024年8月22日)