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自社の情報発信や企業価値向上に「統合報告書」が役立つと聞きました。「統合報告書」について教えてください。
統合報告書は、企業の今後の価値創造についての方針と戦略についての報告書です。社内外とのコミュニケーションツールとして活用します。
「統合報告書」とは、企業の独自の強みである知的資産(定性的データ)と財務データ(定量的データ)の両方の観点から、自社の独自の強みや経営ビジョン、今後の事業展開とその見通しについてまとめた報告書です。
会社には2種類の情報があります。一つは、財務データ(定量的データ)です。売上や利益など、損益計算書に記載されるデータと、現預金や純資産など、貸借対照表に記載されるデータがあります。これらは、ある一時点(または一定期間)における会社の経営状況を表す情報であり、決算書作成時点の過去の情報です。
二つ目は、非財務データ(定性的データ)です。たとえば、経営者の能力の高さや経営理念、経営ビジョン、社員のモチベーションの高さやスキル、ノウハウ、商品開発力や商品力、技術力、優良な仕入先や得意先などがあります。これらは、決算書には表れませんが、会社の“見えざる資産”として、次の売上や利益を創出する源となる資産です。
この“見えざる資産”のことを知的資産と言います。それぞれの企業の独自の強みである無形資産です。知的資産をどのように活用して、お客様にとっての価値を実現しているか、また今後、実現していく計画であるかについて、まとめたレポートのことを知的資産経営報告書と言います。
すべての会社は決算書を作成しますが、決算書のデータだけでは、会社の内容を十分に理解いただくことはできません。
知的資産経営報告書を活用することで、社内外のステークホルダー(お客様、社員、取引先、金融機関など)に対して、決算書だけでは伝えることのできない、自社の独自の強みや経営ビジョン、今後の事業展開についての情報提供を行い、理解を深めていただくことが可能になります。
この知的資産経営報告書では、自社の知的資産に焦点を当てて、価値創造についてまとめていきます。ところが、企業の活動は、無形の資産である、知的資産だけで成立しているわけではありません。
企業の強みとしては、資金力や設備なども重要ですし、事業展開の結果については、財務データをもって語ることも必要です。
統合報告書は、企業の独自の強みである知的資産(定性的データ)と財務データ(定量的データ)の両方の観点で作成しますので、会社の統合的な報告書であると言えます。
このQAを執筆している2016年6月時点では、統合報告書は主に上場企業のIR(投資家向け情報提供)資料として活用されています。決算書だけではわからない企業の独自の強み、経営ビジョン、事業展開を説明することが可能なためです。
では、IRの不要な中小企業では、統合報告書は関係ないかというと、そうではありません。統合報告書は、決算書だけでも、知的資産経営報告書だけでもわからない、企業の統合的な報告書です。
たとえば、事業計画書を作成する際に統合報告書として作成し、社内外に自社の将来の価値創造について、財務面も含めた情報提供を行うことで、自社の事業展開について、社員や金融機関、取引先からの理解を得るなどの活用方法があります。
また、顧客企業からの監査の時に、統合報告書を提示し、自社の経営活動への理解を得ている中小企業もあります。
このように統合報告書は、自社について理解いただくことができる、社内外との強力なコミュニケーションツールです。
(なお、知的資産経営報告書では、知的資産を組織資産、人的資産、関係資産の3種類に分類します。統合報告書では、財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本の6つの資本をどのように活用して、中長期的に価値創造を行うか、また企業活動の中でこの6つの資本がどのように強化・育成されるかについて記載します。資産(資本)の分類の考え方からも、知的資産経営報告書と統合報告書の違いを読み取ることができますね)