第94話「婿への承継は夫婦円満が前提」|事例に学ぶ 事業承継|【公的機関】事業承継プロジェクト|大阪の中小企業支援機関。 大阪産業創造館(サンソウカン)

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事例に学ぶ 事業承継
事業承継相談員が見聞きした事業承継にまつわる「うそのような本当にあった出来事」をシリーズで紹介していきます。
ただし、みなさまに問題点をわかりやすく考えていただくため、少し脚色しています。その点はご容赦ください。
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第94話「婿への承継は夫婦円満が前提」

このブログでは第67話で実の息子ではなくその妻を後継者に指名し成功している事例や、第80話で緻密な後継者教育で娘婿を立派な後継者に育てた事例を紹介するとともに、第79話では不安を持ちながら娘婿を後継者に指名したものの、解任せざるを得なかった事例を紹介しました。
今回は娘婿を後継者候補としながら、結局は承継できなかった事例です。

その会社との接点を持ったのは約10年前で、後継者と目されていた娘婿と面識を持つ機会があったことからです。
娘婿は学卒後ある大手企業に就職していましたが、創業社長の娘との恋愛結婚を機に、同社に入社しました。
社長のこどもはその娘が一人であったことから、社長の後継者として大いに期待されたのです。
その表れとして、娘婿とは養子縁組を結ばれていました。

出会ったころ、後継者である娘婿は悩みを抱え、私に相談を持ち掛けてきたのです。
それは「後継者であるはずの私を社長は全く信頼してくれない。そればかりか欠点ばかりを社員の前で指摘し叱責する。」とのことでした。

そこで会社の状況を聞きますと、娘婿以外に後継者候補は見当たらず、社長も古希を超えたところであり、いずれは承継者に指名されることは間違いないと思うから我慢して時期を待つようにアドバイスしました。

それから間もなく、娘婿から会社を辞めるという報告を受けました。
確かに社長の態度も問題とは思いました。
創業者であると代表を退くことに寂しさを覚え、潔く引退をされないケースはたびたび見受けられます。
そうしたことから、もう少し辛抱するよう話をしましたが、なかなか経営を譲らないことに加え、他にも本人が退職するに至ったある理由が隠されていたのです。

それは娘と娘婿の夫婦仲。
大きな亀裂ができていたようで、数年前から家庭内別居の状態だったのです。
さらに社長の家とは歩いて数分の距離で、そうした状態は社長にも逐一届いているとのことでした。
その状況を聞くと、社長の態度も理解できるものがありました。
不仲な娘夫婦で、その配偶者に社長を譲ることは躊躇しても仕方ないことと納得しました。

その後、娘夫婦は離婚して、娘婿は退職したとの報告を受けました。
夫婦間のことは他人がとやかく言うことではありませんので、新たな道を歩み始めた二人には、縁があった者としてその後の幸せを祈らずにはおれません。

会社の方といえば、引き続き父親が社長を続けておられます。
間もなく傘寿を迎えようとされていますが、具体的な事業承継の道は見えていません。
孫に期待しているようですが少なくとも20年はかかるでしょうから、中継ぎは必須です。
どのようにお考えかはその後接点がないだけにわかりません。
しかし業界で一定の地位を確立している会社だけに、円滑に続いていくことを願っています。

それといらぬ心配ですが、養子縁組がどうなったかが気になります。
養子にも相続権がありますので、縁組が解消されていないと、将来の相続時のトラブルの火種を残していることになるからです。

(2021年11月22日更新)

担当:田口 光春(タグチ ミツハル)

「娘婿夫婦が不仲だと後継指名に不安がでてくる」
「娘婿には離婚すれば会社に残る道はない」

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