年度末になって毎日、様々なところで色々なテーマのシンポジウムやセミナー等のイベントが目白押しである。ご多分に漏れず、当調査会でも先月から今月にかけて3つのイベントを実施・企画している。
昨日は当会の主催で「知の事業化、産業化の課題と解決策を探る」と題するシンポジウムを開催した。(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の畚野社長をはじめとして各界で最先端を走る5名をお迎えして行ったのであるが、その中で松下電器産業(株)産学連携推進センターの吉田昭彦推進室長が「最近では新製品が先行の優位性を保ちうる期間が格段に短くなっている」といった趣旨の発言をされていた。
確かに、デジタルカメラや携帯電話の新商品開発競争は血みどろの戦いの様相を呈しており、老舗コニカミノルタがデジカメ市場から撤退したことは記憶に新しい。プラズマTVにおける覇権争いをみても、圧倒的設備投資でコストダウンを実現できるメーカーの優位性が明らかとなりつつある。
昨年6月に発刊された『ブルー・オーシャン戦略』(W・チャン・キム他著)では、こうした血みどろの競争状態を"レッド・オーシャン"と呼び、それに対して競争のない独占的状況を"ブルー・オーシャン"と呼んでいることを(株)日本総合研究所の東一洋主任研究員から教わった。
同書で記載している"ブルー・オーシャン"の具体例は欧米のものが大半であるが、日本の事例としてNTTドコモのiモードを取り上げて説明している。携帯電話でインターネットに手軽につながる世界初の領域を開拓し、市場の圧倒的支持を得るとともに、iモードの普及により、企業・団体のホームページもiモード閲覧用への対応が相次いだ結果、言わばiモード対応社会が形成されていった。
同書には記載されていないが、ものづくりが得意な日本メーカーのブルー・オーシャン事例はこれ以外にも色々と思いつく。例えば商品ブランド名が一般名詞化したソニーのウォークマン、飲食系ではチキンラーメンやポカリスエット、伊藤園の缶入りお茶など、また、最近ではガソリンとモーター併用のハイブリッド車等々である。
我が国の経済成長を支えてきた製造業では、新製品を生み出すプロダクト・イノベーションや、生産・製造方法を革新するプロセス・イノベーションを起こすべく、企業は多大な研究開発費を投じて凌ぎを削ってきた。こうした努力が新製品として結実したとしても、技術水準が拮抗する我が国のメーカーは間もなく類似商品を市場に投入し、高機能化、低価格化競争に陥っている事例は枚挙に暇がない。
昨日のシンポジウムに登壇していただいた(株)ヘキサケミカルが開発しつつあるプラゲノムは、ICチップのような後付型の情報付加手段ではなく、プラスチック材料本体に製造過程で情報を添加するとともに、その情報を読み取る技術を開発した画期的技術であり、プロダクトとプロセスの両方のイノベーションを実現したブルー・オーシャン商品となろう。
企業としてはブルー・オーシャン的独占状態を少しでも長らえれば、開発コストを回収できるわけであり、このための社会的仕組みが特許等の知的財産権制度である。しかし、知的財産権で保護しうるのはプロダクト・イノベーションの結果としてのWhat(商品自体)と、プロセス・イノベーションに関するHow(製造方法)、および販売者としてのWhoを保証する商標・ブランドに限られている。逆に言えば、製品をいつどこで使用するか(When&Where)、何のために使用するか(Why)、誰が購入・使用するか(Who)を独占/制限することは現在の社会的仕組みの中では殆ど不可能である。
現在のようにモノがあふれた時代では、皮肉なことにブルー・オーシャンはむしろ後者のWhere、When、WhyおよびWhoに着目することで発見できるような気がする。同書の中で言っている"バリュー・イノベーション"(全く新たな価値の創造)の着眼点もそうした領域にこそ埋もれているのではないだろうか。ウォークマンやiモードも移動中というWhen&Whereに着目したブルー・オーシャン商品/サービスであり、上述のプラゲノムも材料本体というWhereにこそ独創性があるのである。
昨日、発売された任天堂「DSライト」は徹夜の行列ができた久しぶりのヒット商品であるが、この人気も"脳を鍛える大人のDSトレーニング"の大ヒットに負うところが大きい。このソフトにより中高年層を新規ユーザーとして取り込んだわけであるが、これもWhyやWhoに着目したブルー・オーシャンの好例と言えよう。
シルク・ドゥ・ソレイユについては『ブルー・オーシャン戦略』でも多くの頁数を割いて特徴を述べているが、昨年、彼らが演ずる「アレグリア2」の大阪公演をご覧になった方は、サーカスでもなく、演劇でもない全く独自の領域を創出したショーに感動したことでしょう。
このように最新のブルー・オーシャン事例を客観的にみると、モノ単体よりもサービスや情報・コンテンツにこそポイントがあるように思われ、近年のサービス経済化の潮流を裏づけているのであるが、知的財産権で保護しにくい領域であるがゆえに、他社の追随を許さないためには一工夫も二工夫も必要となる。
最近、マスコミを賑わしている社会的キーワードとしては、人口減少社会、団塊世代の大量退職、安全・安心の社会構築などである。こうした現象はこれまでに我が国が経験したことのないものであり、その意味では紛れもなくブルー・オーシャン的市場である。こうした市場において、他と競争のない領域を射止める真のブルー・オーシャン型ビジネスを確立できる企業が大阪発で多く生まれることを期待したい。
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