■ 大阪の経済(2008年版) 補足説明

第Ⅲ部「土地価格の本質と大阪都市政策の問題点」 68ページ 「期待地代」と「期待還元利回り」について、建部 好治先生に解説していただきました。

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 「期待地代」と「期待還元利回り」の解説                        建部 好治
 期待地代

 地代に「期待」がつくのは、収益価格が将来の期待(予測)される地代を期待還元利回りで資本還元して求めるものだからである(以下「期待」を省略)。

(1)差額地代の第Ⅰ形態(表Ⅱ-1):経済システムが閉鎖的な国内経済の下で、土地が大地主により所有されており、①農地では、人口増加により、農業生産物に対する需要が増加しつつある状態を、②宅地では、やはり人口増加により、工業・サービス生産物に対する需要が増加しつつある状態を、それぞれ前提とする。

①農地:第Ⅰ形態の差額地代は、資本と労働用役が別々の農地に投下される場合、相対的に優位な農地に発生する。相対的に優位な農地とは、自然的豊度(土壌の肥沃度等)による10a当り収量額と自然的位置(河川等による搬出入の利便度合い等)・人為的立地(インフラ整備による運送費負担割合等)がそれらの劣等な農地よりも優れているものをいう。
 人口増加により、農業生産物に対する需要が増加すると、この場合には土地による制約が大きいから、それらの劣等な農地でも農業生産物を生産せざるを得なくなり、その農業生産物の個別的生産価格がその市場調整的生産価格となる。それ故、その市場調整的生産価格と相対的に優位な農地における農業生産物の低い個別的生産価格との差額としての第Ⅰ形態の差額地代が発生する。

②宅地:第Ⅰ形態の差額地代は、資本と労働用役が別々の宅地に投下される場合、相対的に優位な宅地に発生する。相対的に優位な宅地とは、自然的豊度(堅い地盤等)・人為的熟度(上下水道の整備度合い等)による㎡当り製品・サービス生産額等と自然的位置(河川等による搬出入の利便度合い等)・人為的立地(インフラ整備による運送費負担割合等)がそれらの平均的な宅地よりも優れているものをいう。
 人口増加により、工業・サービス生産物に対する需要が増加すると、この場合には土地による制約が小さいから、それらの平均的な宅地で生産した工業・サービス生産物の平均的生産価格がその市場調整的生産価格となる。それ故、その市場調整的生産価格と相対的に優位な宅地における工業・サービス生産物の低い個別的生産価格との差額としての第Ⅰ形態の差額地代が発生する。

(2) 差額地代の第Ⅱ形態(表Ⅱ-1):前提条件は、(1) の差額地代の第Ⅰ形態の場合と同様とする。

①農地:第Ⅱ形態の差額地代は、資本と労働用役が同一の農地に投下される場合、相対的に優位な農地に発生する。相対的に優位な農地とは、(自然的)豊度(水利等の改良度合い等:自然的に括弧をつけているのは、人為的に自然の力を引き出す側面を捉えたもの)による10a当り収量額と人為的豊度(ハウス農業等による人為的な資本投下割合等)がそれらの劣等な農地よりも優れているものをいう。
 人口増加により、農業生産物に対する需要が増加すると、この場合には土地による制約が大きいから、差額地代の第Ⅰ形態の場合と同様に、それらの劣等な同一の農地でも施肥等の投資により農業生産物を増産せざるを得なくなり、その農業生産物の個別的生産価格がその市場調整的生産価格となる。それ故、その市場調整的生産価格と相対的に優位な農地における農業生産物の低い個別的生産価格との差額としての第Ⅱ形態の差額地代が発生する。

②宅地:第Ⅱ形態の差額地代は、資本と労働用役が同一の宅地に投下される場合、相対的に優位な宅地に発生する。相対的に優位な宅地とは、(自然的)豊度(堅い地盤等)と人為的熟度(立体化・中高層化の度合い等)による㎡当り製品・サービス生産額等がそれらの平均的な宅地よりも優れているものをいう。
 人口増加により、工業・サービス生産物に対する需要が増加すると、この場合には土地による制約が小さいから、それらの平均的な宅地で生産した工業・サービス生産物の平均的生産価格がその市場調整的生産価格となる。それ故、その市場調整的生産価格と相対的に優位な宅地における立体化・中高層化等による工業・サービス生産物の低い個別的生産価格との差額としての第Ⅱ形態の差額地代が発生する。

 

 期待還元利回り

 還元利回りに「期待」がつくのは、地代と同様に、収益価格が将来の期待(予測)される地代を期待還元利回りで資本還元して求めるものだからである(以下「期待」を省略)。

(1)信用構造:信用制度の立体的構造(図Ⅱ-1)の諸階層における各信用及びそれらの 諸階層内部における各信用は、商業信用を除いて、それぞれの信用市場を形成している。

(2)利子率:利子率は、提供される資金の各額面金額(例えば預金・信託証書、手形、金 銭消費貸借証書等に記載された金額)に対するそれぞれの利子の割合をいう。換言する と、預金・信託証書、手形、金銭消費貸借証書等の元本があれば、それらに所定の利子 率を適用して、預入又は貸出の期間の経過にしたがいそれぞれの果実としての利子が得られる。
 それらの預入又は貸出の期間が長期で、引出又は回収のリスクが大きいほど、利子率は高くなり、それらの期間が短期で、リスクが小さいほど、利子率は低くなる。
具体的には、その期間が1年以内のものは、短期利子率、その期間が1年超5年以内のものは、中期利子率、その期間が5年超のものは、長期利子率としてそれぞれ区別されている。
 利子率の水準は、利回りの水準を含めて、一般的に資本の蓄積が少なく、経済の成長が早い国ほど、高位になり、資本の蓄積が豊かで、経済の成長が緩やかな国ほど、低位になる。しかし、グローバル化した各国経済の繋がりの中で、これらの利子率又は利回りの水準は、国際的な裁定を通じて相互に影響しあっている。
 そして、現時点の信用市場では、資本の過剰化に基礎をおいた過大な信用供給が可能になり、ヘッジファンド等の投機的動機に基づくキャピタルゲイン目的の巨大で過剰な信用需要を賄っている下で、擬制資本としての膨大な各種株式・公社債等の時価が常に大きい変動を伴いながら形成されている。それ故、今や利回りとしての、信用市場において形成された「社会化された利子率」の方が逆に本来の利子率に影響をあたえる側面も重要になってきている。

(3)利回り:利回りは、株式、社債、国債等の券面に記載された金額ではなくて、相場としての時価に対する、それぞれの付加価値の分配分としての期待配当、確定利子等の割合であり、すなわち事後的に資産市場で成立する社会化された利子率である。

(4)利子率と利回り:これらの利子率及び利回りは、全体としての金利体系を形成している。そして、資本蓄積のうちの集中の側面を担うものとしての社会的な資金の配分は、このような全体としての金利体系とその水準を基準として行われている。
 これらの利子率及び利回りは、信用制度の構造の頂点に立つ日本銀行の金融政策、特に①短期金利としての公定歩合(及び長期金利としての国債(指標銘柄)利回り)の上下、②公開市場操作、③支払準備率操作によるマネーサプライ量の収縮・伸張、及び④それが財務省の窓口として行われる外国為替政策(円売りドル買い時の不胎化の有無)により、かっては大きい影響を受け、市場が自由化した今もかなりの影響を受けて成立しているのである。

(5)土地利回り:土地の場合には、土地はタダの部分があるということで額面金額がないから、付加価値の分配分としての地代(又は家賃のうちの土地帰属賃料)が、上記のように成立した利子率及び利回りのうちの土地還元利回りにより資本還元されて、土地の時価を形成することになる。したがって、土地還元利回りは、この場合の土地の時価に対する地代(同上)の割合のことである。
 土地還元利回りの水準は、具体的には、土地の運用が長期にわたるから、長期利子率の影響を受けた長期利回り、一般的にはたとえば10年もの国債利回り(リスク0)にリスクを加えたものと考えられている。このリスクについては、国債利回りと不動産投資信託(REIT)利回りとの差が参考になる(外資系ファンド等による投機的な価格形成には留意する必要がある)。

以上