今までいただいたご質問の中で多かった質問とその回答例です。
詳細画面から専門家に、メール相談や直接会っての面談などを申し込むことができます。
当社は歩合給の物品販売業者です。良かれと思い従業員に厳しい指導をしていたところ、従業員から「パワハラじゃないですか」と申し入れがありました。厳しい指導とパワハラの違いはどこにあるのでしょうか。
明確な線引きはなく、個別具体的な事情により判断せざるを得ません。
1.法律上の定義
労働施策総合推進法の改正により、パワハラは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義されました(第30条の2第1項)。しかし、どのような場合に「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」に該当するのか具体的な規定は存在せず、指導とパワハラの区別は難しいのが現状です。
指導と受け止めるのか、パワハラと受け止めるかは、従業員の性格、上司と従業員の人間関係、職場環境によっても千差万別であり、基準を設けることは困難です。
そこで、指導かパワハラの違いは、裁判例を参考に判断せざるを得ないでしょう。
2.パワハラと認められた事例
ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(東京高裁平成25年2月27日)では、「帰社命令に違反したことへの注意を与えることよりも、従業員に精神的苦痛を与えることに主眼がおかれたものと評価せざるを得ないことから、注意を与える目的もあったことを考慮しても、社会的相当性を欠き、不法行為を構成する」と判断されています。
3.パワハラと認められなかった事例
医療法人財団健和会事件(東京地裁平成21年10月15日)では、「単純ミスを繰り返す従業員に対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる職場の管理者が医療現場において当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまるものであり、違法ということはできない」と判断されています。
4.裁判例から読み取れる視点
事実関係が異なるため一般化はできませんが、上記2事例を参考にすると、①業務指導以外の目的(精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする目的)を有していないか、②通常の指導の範囲内といえるか(相当性を逸脱していないか)が、指導とパワハラの違いのひとつの基準になる可能性はあるでしょう。
そして、①②の判断にあたっては、指導の態様・目的・頻度、上司と部下の人間関係・職務上の地位の違い、従業員の勤務態度・成績の事情等を総合考慮して判断されることになると考えられます。